韓国で、北朝鮮の金正恩党委員長を再評価しようとの主張が出ている。

中央日報(電子版)11日付によれば、韓国の有力シンクタンクである世宗研究所の鄭成長(チョン・ソンジャン)統一戦略研究室長が同日、「北朝鮮の対南・対外政策の転換と金正恩のリーダーシップ再評価」と題した報告書を発表。その中で、金正恩氏に対する既存の非道なイメージは偏った見方である、などと主張しているという。

同紙によれば、鄭氏は金正恩の執権以後、北朝鮮では「企業や農場で中国式の経済改革がかなり進捗し、市場が活性化されるなど、肯定的な変化も現れた」と指摘。続けて、「過去の李明博・朴槿恵政権による対北情報の統制と操作のために、私たちの社会での金正恩に対する認識は非常に偏向している」「李明博・朴槿恵政府は金正恩が非常に未熟で非道な指導者という否定的な印象だけ植えつけようとした」と主張しているという。

同報告書は、鄭氏個人の見解であるかもしれない。しかし、同氏は韓国における北朝鮮研究の権威のひとりだ。またこうした主張は、文在寅政権とその周辺にただよう雰囲気とも一致するものだと言える。私自身、金正恩氏を客観的に評価することには賛成だ。そうしなければ、どのような国も対北戦略で重大な誤りを犯すことになるだろう。しかし、金正恩氏がこれまでしてきたを相対化し、そのネガティブな面を矮小化するのには反対だ。

鄭氏は報告書で、「金正恩の執権以降、140人の幹部が粛清されたが、これは金正日時代に比べる7%に過ぎない」と指摘。また、金正恩氏によって処刑された張成沢(チャン・ソンテク)元国防副院長について、次のように述べているという。

「張成沢は、反党・反革命的宗派行為と権力乱用による不正腐敗行為を日常的に行い、複数の女性と不当な関係を持った容疑で粛清された」
「複数の信頼できる情報源によると、張成沢は多くの女性との不適切な関係を通じて作った子が、15人を超えることが分かった」
「張成沢の存命時に北朝鮮で『#Metoo』運動が起きたならば、張成沢が最も重要なターゲットになっただろう」

張氏の専横と乱れた女性関係は、つとに知られるところであり、彼が「善人」であったとは筆者も思わない。しかし問題の本質は、彼の人間性ではなく、金正恩氏のやり方にある。張氏の処刑後、彼の身内だった北朝鮮きっての「イケメン俳優」や、張氏の愛人だった元スター女優もともに処刑されたという。

彼らにも何らかの落ち度があったのかもしれないが、権力闘争の「巻き添え」を食って殺されたのは確かだろう。それを、あたかも「仕方のないことだった」かのように冷めた目で見ることには、筆者は違和感を覚えざるを得ない。私たち民主主義国に暮らす人間の価値観からすれば、人間の命をそのように粗末に扱うなど、とうてい容認できないことだ。

繰り返すが、金正恩氏を客観的に評価するのはけっこうなことだし、必要なことでもある。しかしそのために、私たち自身の「基準」を変えるようなことがあってはなるまい。