藤原慎一、ソウル=武田肇 古城博隆、藤田直央、桑原紀彦 

【動画】海上自衛隊の哨戒機が撮影した当時の映像=防衛省提供
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 海上自衛隊のP1哨戒機が韓国海軍艦艇から射撃用の火器管制レーダーを受けたとされる問題で、防衛省は28日、哨戒機が撮影した当時の映像を公開した。防衛省ホームページ(http://www.mod.go.jp/)から見られる。約13分7秒の映像には、レーダー照射を受けたとされる瞬間、韓国軍艦艇への再三の呼びかけなど生々しいやりとりもある。「証拠」を広く公開した日本側に対し、韓国側は反発した。

 海上自衛隊の哨戒機が韓国海軍艦艇から火器管制レーダーの照射を受けたとされる事案の発生から8日目。防衛省が映像の公表に踏み切ったのは、レーダー照射を否定し続ける韓国側との主張の隔たりが埋まらないと判断したためだ。

 岩屋毅防衛相は28日の会見で「火器管制レーダーの照射を受けた事実を裏付ける具体的な証拠を有している」と強調。公開理由について「国民や国際社会に、日本は適切に自衛隊の運用を行っていることを理解いただきたい」と話した。

 日韓防衛当局間は、ぎくしゃくした関係が続く。10月に韓国であった国際観艦式では、旭日旗(きょくじつき)の掲揚をめぐり海自護衛艦が参加を見送った。今月には韓国海軍が、日韓両国が領有権を争う竹島(韓国名・独島(トクト))を防衛する演習を行うと発表し、日本が抗議した。

 ただ、岩屋氏は会見で「日韓間には様々な困難もあるが、安全保障上は極めて重要な二国間関係だ」とも指摘。防衛当局間の交流を続ける方針を示した。その上で、「もし自分たちの側に非があれば、友好国だから『申し訳なかった。二度と起こさない』と互いに話ができる関係を築きたい」とも述べ、日韓関係の傷口を広げる事態は避けたいとの思いをにじませた。

 これに対し、韓国国防省は28日、防衛省が映像の公表に踏み切ったのを受けて「韓日当事者間が協議を通じて相互の誤解を払拭(ふっしょく)する趣旨で実務協議を開催したわずか1日後に日本側が映像を公開したことに深い憂慮と遺憾を表明する」とした報道官談話を発表した。

 27日に日韓防衛当局担当者らによるテレビ会議を開いた直後の公表を受けた内容だ。さらに「重ねて強調してきたように(韓国海軍艦艇の)広開土大王号は正常な救助活動を行っており、日本の哨戒機に向かって追跡レーダーを運用していないとの事実に変化はない」とした。(藤原慎一、ソウル=武田肇)

映像から読み取れるものは

 「FCコンタクト(火器管制レーダー探知)」「はい、了解」「避けた方がいいですね」。公開された映像の6分過ぎ、韓国軍艦から約5千メートル。レーダーを照射されたとして報告や指示が次々と交わされる。受信したレーダー波は音波に変換され、それを聞いていたクルーが「めちゃくちゃすごい音だ」と漏らす。「砲はこちらを向いていない」と確認する音声も流れた。

 安全のため約8千メートルまで離れた8分50秒ごろ、再び照射を探知した。「貴艦の行動の目的は何ですか」。はっきりした口調の英語で、海自機から韓国軍艦に意図を問い合わせる。三つの周波数で計6回、呼びかけたが、応答はなかった。

 呼びかけについて、小原凡司・笹川平和財団上席研究員は「最初はモニターしなければならない周波数帯で、さらに二つの異なる周波数帯による通信でも行った」として妥当とみる。

 映像は音声の一部を消すなど処理したが、場面はノーカットだ。韓国側が主張するような、軍艦の真上を低空で飛ぶ場面は見当たらない。香田洋二・元自衛艦隊司令官は「適切な距離を保っており、不安を持たせない飛行」と分析する。

 そもそも、韓国はレーダーを使って北朝鮮の船を捜索していたと説明していたが、映像では韓国の警備救難艦のすぐそばに北朝鮮船舶とみられる船が見える。元海将の伊藤俊幸・金沢工業大学虎ノ門大学院教授はこの点では、韓国側の主張は成り立たないとみる。

 肝心の照射を受けた場面で、映像からはレーダー波を変換した音が聞こえない。伊藤氏は「自衛隊の能力に関わると判断して消したのだろうが、日本の主張の証拠としては弱い」。一方で、海自の隊員たちは非常に冷静に対応していると感じたという。「平時で、友軍の韓国軍が相手。恐怖を感じるものではなく、なに馬鹿なことをやっているんだという感じだと思う」(古城博隆、藤田直央、桑原紀彦)