FRBは昨日3回目の利下げを決定した。下げ幅は0.25%。大方の市場関係者が予想した通りの結果である。想定外のこともサプライズもなし。ただし、今後の見通しについてはちょっとした波紋も広がっている。FOMC終了後に発表された声明には、これまで利下げ見通しを代弁していた景気拡大を維持するために「適切に行動する」との文言がなくなった。代わって入ったのが「適切な道筋を見極めるに当たり、経済の見通しについて今後もたらされる情報の意味合いを引き続き注意深く監視する」との表現。いつにも増して曖昧な表現だが、“監視”の一言はきつい気がする。だが、この言葉にこそパウエルFRB議長の本音が隠されているような気もする。

トランプ大統領はFOMCの直前に「BOJやECBに習ってマイナス金利を導入すべきである」との趣旨の発言を行ってFRBに圧力をかけた。パウエル議長は当然のことながら最大権力者の圧力を無視、淡々と既定路線通りの利下げに踏み切った。その上で「適切に行動する」との文言を削除している。市場はこれを、先行き見通しが不透明なことに起因する景気の悪化を防ぐための「予防的利下げ」の終了、と受け止めている。FRBは利下げの効果が出始めていると見ており、これ以上将来的な利下げ予告は必要ないと判断した。米国経済の不安材料だった米中貿易摩擦、英国の「合意なき離脱」という懸念材料にも緩和の兆しが出ている。トランプ政権の政策が、FRBの姿勢転換を後押ししている。

昨日の朝方発表された7−9月期の米GDPは予想(1.6%増)を上回る1.9%増と好調だった。トランプ大統領が掲げる年間3%の成長率には届きそうにないが、腰折れが心配されたひと頃に比べれば雰囲気はだいぶ改善している。こうしたことを踏まえれば、FRBの判断は至極当たり前でもある。問題は「(今後もたらされる)情報の意味合いを引き続き注意深く監視する」との文言の解釈だ。文字通りに解釈すれば「今後の経済指標を注意深く監視する」ということになる。経済指標を左右するのはトランプ大統領の政策。パウエル氏はプレッシャーをかけ続ける大統領にそれとなく、「注意深く監視しますよ」と反撃の狼煙をあげた。監視の裏にはトランプ対パウエルの暗闘が隠されている。この解釈は奇を衒いすぎだろうか。