先週は韓国と北朝鮮が国境付近の黄海で北朝鮮による奇怪な事件を起こした。依然として情報は錯綜しており、すべてが明確になっているわけではない。だが、事件の核心は北朝鮮軍による韓国人の虐殺だ。人道上ありうべからざる事件というべきだろう。北朝鮮はこの事件に関連して25日、労働党統一戦線部長名による通告文を韓国宛に発出、「大統領と南の同胞に失望感を与え、非常に申し訳ないと思う」と謝罪した。異例の謝罪であり、これまでの北朝鮮の対応からは想像できない文書というべきだろう。だが、27日に至って「韓国は遺体の捜索」と称して北朝鮮の領海を侵犯していると抗議した。朝鮮中央通信が伝えたものだが、こちらの方は本来の北朝鮮らしさを醸し出している。一体どうなっているのか。韓国の対応にも「えっ」と思うようなことが多々ある。「朝鮮半島の闇深し」と思わざるをえない事件だ。

事件発生は21日だといわれている。24日に韓国軍が発表したところによると、韓国人A(漁業指導員の男性公務員)が漁船から転落、黄海を漂流していたところ、北朝鮮軍によって射殺された。北朝鮮軍は遺体にガソリンらしきものを撒いて焼却したという。これだけで身の毛がよだつほどのおぞましい事件であるが、韓国軍はAが自ら北朝鮮に越境しようとしていたと発表している。21日の発生から発表まで3日かかっている。この間になにがあったのか。Aが発見されたのは22日の午後三時半ごろとされており、発見から発表まで2日近い時間が経過している。23日には文在寅大統領が軍関係者を前に北朝鮮との和平実現を訴える演説を行なっていたとの情報もある。軍が事実関係を発表した24日に文大統領は「衝撃的な事件で非常に残念だ」(聯合ニュース)、「いかなる理由でも容認できない」(同)と述べている。23日時点ではこの事件のことを知らされていなかったのだろうか。

北朝鮮の権力内部も混乱しているように見える。龍谷大学の李相哲教授によると「軍隊でも射殺となれば金正恩あるいは金与正の意向を確認するはず。軍独自で射殺命令を出すことはない」と指摘する。北朝鮮ウォッチャーの第一人者である同教授の指摘には重みがある。仮に金与正氏が射殺命令を出したとしたら、25日に明らかになった謝罪文はなにを意味するのだろうか。一説によると北朝鮮は射殺については認めているものの、遺体の償却については否定しているという。ガソリンを撒いて海上で遺体を焼却する行為は、いかなる理由があっても許されるものではない。22日の漂流発見から射殺まで5時間以上の時間が経過している。行方不明になった時点から数えれば30時間近い時間が経過している。この間、韓国軍は北朝鮮の動向を克明にビデオで撮影していたとの情報もある。韓国は北朝鮮に共同調査を要請している。それもいいが、全ての情報をまず公開すべきではないか。