【パリ時事】2015年にイスラム過激派による襲撃を受けたフランスの週刊紙シャルリエブドが今年9月、イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を再掲載して以降、仏国内でテロが相次いでいる。複数のイスラム教国が風刺画を非難しているが、マクロン大統領は「風刺画をやめることはない」と公言。テロのリスクがあろうとも、「表現の自由」という絶対的権利を守ると再三にわたり表明している。

イスラム世界で怒り拡大 仏「冒涜の自由」が波紋

 一連の襲撃のうち最初に発生したのは、9月25日にパリのシャルリエブド旧本社前でパキスタン出身の男が通行人を刃物で襲い、2人に重傷を負わせた事件。さらに今月16日にパリ郊外で、風刺画を授業の教材にした男性教員が首を切られて殺害され、29日には南部ニースのカトリック教会で3人が犠牲になる事件が起きた。いずれもイスラム過激派によるテロとみられている。

 マクロン氏はシャルリエブド旧本社前での事件に先立つ9月1日、「フランスには冒涜(ぼうとく)する自由がある」と表明。ニースの事件直後には「われわれの価値観、自由の感覚が攻撃されたが、屈することはない」と述べた。

 政府が風刺画の出版などを擁護する姿勢でぶれない背景には、世論の支持がある。教員殺害テロ後に調査会社IFOPが公表した世論調査によると、表現の自由を教える授業で宗教を侮辱する風刺画を生徒に見せる行為は「正当化される」と答えた人は、78%に上った。

 フランス国民にとって「表現の自由」は、1789年のフランス革命開始直後に議会が採択した人権宣言で保障された最も基本的な権利。絶対王政やカトリック教会の強大な権力との戦いの末に勝ち取ったこの権利を標的にしたテロ行為は、「フランスへの攻撃」(マクロン氏)と見なされる。

 ただ、どこまでを表現の自由として認めるかをめぐっては、あいまいな部分も多い。「表現の自由」とは「権力を批判する自由」であり、宗教に対する冒涜を含む一方で、信者個人に対する中傷や侮辱は許されない。「宗教への冒涜が信者個人の信仰心を傷つける」と指摘する声も上がる。

 ルドリアン外相は今月29日、議会で「イスラム教国への平和のメッセージ」を発表。「イスラム教を尊重する。フランスは軽蔑や拒絶ではなく、寛容の国だ」と訴えたが、フランス流の「表現の自由」を移民や外国人が理解するのは容易ではない。ダルマナン内相は30日、ラジオ局RTLで「一連の恐ろしい襲撃のような出来事はまた起こると心得ておく必要がある」と警鐘を鳴らした。

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