米議会で難航の末に可決された総額9000億ドル(約93兆円)規模に上る追加の新型コロナウイルス経済対策は、トランプ大統領が27日に法案に署名し、ようやく成立にこぎ着けた。現金給付の増額要求を突如持ち出し、法案への署名に抵抗したトランプ氏だったが、景気に深い傷痕を残す「焦土作戦」とも言える行動に与野党が猛批判。政権末期におけるコロナ対策での実績作りのもくろみは不発となった。

93兆円コロナ経済対策が成立 トランプ米大統領、一転して法案に署名

 ◇突如物言い

 「全員が復職するまでわたしの仕事は終わらない」。トランプ氏は27日の声明で、企業や雇用の回復を後押しする重要性を強調。追加対策は「国民を守る責務だ」と意義を誇って見せた。

 追加対策法案は議会上下両院で21日に可決されていたものの、トランプ氏が翌日に現金給付額を1人600ドル(約6万2000円)から2000ドル(約21万円)に増やすよう突如要求。議会が法案を修正しない限りは署名しないと言い出し、与野党に衝撃が走った。

 法案をめぐっては、与野党対立が泥沼化し、協議が長期化。暫定予算が29日に失効し政府機関が一部閉鎖に陥るのを回避するため、2021会計年度予算案と一体化することで、ようやく可決にたどり着いた。この間トランプ氏は傍観姿勢だったが、成立の土壇場で物言いを付けた。

 野党民主党は、トランプ氏の提案を受け、法案の増額修正を目指したものの、財政赤字拡大を問題視する与党共和党は反対。与野党間の調整は、再び暗礁に乗り上げ、政府閉鎖が現実味を帯びた。

 ◇身内に報復?

 トランプ氏は混乱を演出して自身の存在感をアピールしてきた。今回、現金給付の増額を持ち出した予想外の行動に出た背景には「バイデン次期大統領」を容認した「(身内の)共和党への復讐(ふくしゅう)」(米誌)との見方もある。

 ただトランプ氏が署名を拒み、26日までの失業給付特例が失効。雇用回復に弱さが出始める中、対象だった推計1200万人が影響を受ける。民主党のサンダース上院議員は「常軌を逸している」とトランプ氏の対応を切り捨てた。

 共和党でも上院での過半数維持がかかる来年1月のジョージア州連邦議会上院選への悪影響に懸念が拡大。トゥーミー上院議員は「大統領であっても望み通りにならない」と署名拒否を批判した。「けちくさい1人600ドルでなく、2000ドルを人々に与えたいだけだ」と強がっていたトランプ氏の外堀は埋まっていた。