ロシアのプーチン大統領が命令したウクライナ侵攻に、本国ロシアでも波紋と動揺が広がっている。若い兵士を送り出し「演習が終わったら帰る」と聞かされていた父母らが、ウクライナ側で捕虜になったという情報から初めて息子の「戦争参加」を知るという事例も相次いでいる。

〔写真特集〕ロシアの軍用車両

 同じスラブ民族の「兄弟国」であるウクライナへの侵攻をめぐっては、ロシアで「反戦デモ」が続くなど衝撃は大きい。ロシア国防省が「人的損害は極めて小さい」と強弁する中、戦死者の実態が明るみに出れば、厭戦(えんせん)ムードが高まりかねない。

 報道によると、ウクライナ軍トップがフェイスブックで公開した捕虜2人とされる写真で左に写っているのは、中部サラトフ州出身の兵士(19)。父親はロシアの独立系テレビ局「ドシチ」に「24日に知った時はうそだと思ったが、翌日に(人権団体・兵士の母の会から)本当らしいと伝えられた。軍に照会すると、五分五分で確認中と言われた」と明かす。

 この兵士の母親も英BBC放送の取材に「息子を取り戻すのに、どこに当たればいいのか」と戸惑いを隠さない。ロシア国営テレビは25日、捕虜の情報は「偽ニュース」だと反発した。

 報道写真やソーシャルメディアからは、ロシア側の戦車などが破壊され、戦死者がいることがうかがえる。ウクライナ国防省は27日、ロシア軍の犠牲は「推計4300人」と主張した。

 ウクライナ側は27日、ロシア軍の捕虜の動画や戦死者の身分証を掲載した情報サイトを開設。内務省関係者は動画で「ロシア人にとって息子や夫の消息が気掛かりであるのは知っている」と述べ、活用を促した。戦意をくじく「心理戦」を始めたとみられる。
 実際、1990年代のチェチェン紛争でも若い兵士が多数戦死し、母の会の告発がロシア軍撤退に道を開いた。今回もウクライナ侵攻後にロシアで反戦デモが始まり、人権団体OVDインフォによれば、拘束者は約6000人に上った。

 「ロシア人の反戦運動だけが、この惑星上の命を守ることができる」。2021年ノーベル平和賞受賞者で、ロシアの独立系紙「ノーバヤ・ガゼータ」編集長ドミトリー・ムラトフ氏は24日に声明を発表。プーチン政権内に「戦争を止める人は誰もいない」として、国民が声を上げるよう訴えた。声明は通信監督当局の検閲で、同紙サイトから削除された。