2022年も今日がご用納め。当コラムも年内これが最後。格好良く今年を総括して締めくくりたいが、そんな能力も見識もない。そこでいつもの通りメディアの評価を紹介して1年の納めとする。選んだのはロイターが昨日配信した元財務官の中尾武彦氏のインタビュー。タイトルは「日銀実質利上げ、後任総裁の負担軽減効果あった」だ。この1年、黒田異次元緩和に異を唱え続けてきた。ターゲットはY C C(長短金利操作)。その修正が前回の金融政策決定会合で始まった。おそらく日本の金融政策が正常化するにはこれから10年近くかかるだろう。その間日本経済は前例のない苦しみを味わうことになる。そのY C Cならびに異次元緩和の総括を元財務官の中尾氏が語っている。元財務官でアジア銀行総裁経験者という経歴は黒田氏とまったく同じ。個人的にはこの人が次期日銀総裁の適任ではないかと、勝手に夢想している。以下、同氏のインタビューからの引用。

<Y C Cの評価>

(1)YCCは、人々の物価感を引き上げつつ金利を低く抑えることで実質金利を引き下げ、デフレの脱却、経済の刺激を図る効果よりも、円安など副作用の方が大きいため、いずれ修正が必要と考えていた。

(2)来春就任する後任の総裁が、政策修正による住宅ローン・国債金利上昇などマーケットのショックの責任をすべて負担せずに済む効果があったのではないか

(3)金融政策が他の国とあまりに異なることが市場から見透かされ、円安に大きく振れた。消費者の負担が増え、輸入企業も困る状態になり、会社も不動産も安い国になった。GDPも個人所得もドル建てでどんどん下がり韓国に肉薄されている

(4)一言でいうと実質的にドル円360円の時代にもどってしまい、変動相場制スタート以来の50年かけて築いた高所得国の地位から落ちていっている

(5)市場機能が弱くなり、金利を長期までゼロ近傍に固定することで財政規律も弱くなっている。国債を日銀が事実上引き受ける財政ファイナンスになっており、歳出拡大はなんでも国債増発で賄えばよい空気になっている

<アコードの改訂>
(1)アコードの改訂は重い議論なので軽々には言えないが、2%の物価目標にどこまでこだわるのかというのはある

(2)2%目標は一つの目安と考えれば変更することが良いことかわからないが、それにこだわることが金融・財政政策の硬直性を生んでいる

全く同感だ。僭越ながら追加すれば異次元緩和の無意味な長期化が、ゾンビ企業の存続と企業の競争意識の衰退を招いた。消費者にも「安ければいい」という意識を植え付けた。安全・安心で高品質な製品のコストを負担する意識は、もはや日本の消費需要から完全に消え去っている。これは次期日銀総裁への立候補宣言だ。