[東京 23日 ロイター] – 岸田文雄首相は23日、衆議院本会議で施政方針演説を行い、日本の持続性や社会的包摂を考える上で「子ども・子育て政策」は最重要政策だとし、「従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」と意気込みを語った。防衛力の抜本的強化や「新しい資本主義」の前進に向け、予算案や法案を野党とも正面から議論し実行に移していくとも述べた。

<歴史の分岐点に立つ日本>

首相は冒頭、近代日本にとって、明治維新と、その77年後の大戦の終戦が大きな時代の転換点となったと指摘し、「奇しくもそれから77年が経った今、我々は再び歴史の分岐点に立っている」と語った。

ロシアのウクライナ侵略が法の支配による国際平和秩序を揺るがし、国連の安全保障理事会は機能不全に陥っている。気候変動や感染症対策など地球規模の課題、世界中で生じている格差なども待ったなしの問題だとし、5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)の成功を含め、G7議長国として世界を先導していく決意を示した。

積極的な外交を優先させつつ、防衛力も抜本的に強化する。首相は、日本の安全保障政策の大転換となるが「憲法、国際法の範囲内で行うものであり、非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としてのわが国としての歩みをいささかも変えるものではない」と改めて説明した。

また、日本の外交の基軸は日米関係だとし、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化するとともに、サプライチェーンの強靭化半導体に関する協力など、経済安全保障分野の連携に取り組むとした。

<物価上昇を超える賃上げを改めて強調>

経済面では、社会課題の解決と成長を同時に実現する「新しい資本主義」を前に進める。まずは補正予算の早期執行で足元の物価高に対応経済を立て直し、財政健全化に取り組むと語った。

首相は、企業が収益を労働者に分配し、消費が伸びて経済成長するという好循環のカギを握るのが賃上げだと指摘。足元で物価上昇を超える賃上げが必要だと改めて強調した。中小企業の賃上げ実現に向け、下請け取引の適正化や価格転嫁の促進といった対策も強化すると語った。

ロシアが原油や天然ガスなどの供給を「武器」に利用する中、エネルギーの安定供給も課題となる。安全確保と地域の理解を大前提としつつ、原発の次世代革新炉への建て替えや、運転期間の一定期間の延長を進めると語った。国が前面に立って最終処分事業にも取り組むという。

<6月までに子ども・子育て予算倍増に向けた大枠提示>

急速に進展する少子化によって、日本の昨年の出生数は80万人割れが見込まれている。首相は「わが国は、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている」と問題意識を示し、「子どもファーストの経済社会を作り上げ、出生率を反転させなければならない」と語った。

首相は、子ども・子育て政策について「最も有効な未来への投資だ」とも指摘。4月に発足する「こども家庭庁」のもとで体系的に政策を取りまとめつつ、「6月の骨太方針までに将来的な子ども・子育て予算倍増に向けた大枠を提示する」と表明した。

<憲法改正も先送りできない課題>

首相は、憲法改正も「先送りできない課題」と位置付けた。「今国会で制定以来初めてとなる憲法改正に向け、より一層議論を深めていただくことを心より期待する」と語った。

首相はまた、旧統一教会との関係や、政治とカネなど、政治の信頼にかかわる問題が立て続けに生じ、国民から厳しい声が出たことを重く受け止めていると語った。日本を次の世代に引き継いでいくため、課せられた歴史的な使命を果たすため、全身全霊を尽くしていくと締めくくった。

(杉山健太郎)