スシローで起こった少年Aによる迷惑行為をテレビで見て衝撃を受けた。日本を象徴する技術と食のみごとな融合である回転寿司の安全性が、木っ端微塵に破壊されてしまった。回転寿司は性善説をベースとした安全によって成り立っている。というよりも「人様に迷惑をかけない」という、親から子へと連綿と受け継がれてきた日本的な美徳の上に成り立っている食文化、といった方がいいかもしれない。それが日本人の精神的なよろどころであり、主義・主張や考え方が違う多様な人間が一堂に介しても、誰ひとり寿司の「安全性」を疑うことはなかった。その美徳を少年AはS N Sへの投稿という誘惑に駆られて無邪気にぶっ壊してしまった。おそらく悪意も人様を貶めようという意識もなかっただろう。だがやってしまったことの凶悪性は、いくら謝っても消えることはない。

ぶっ壊したのは回転寿司だけではない。日本が世界に誇る食の安全性、精神的な安定性、社会を成り立たせている安心・安全の基盤そのものを壊してしまったのである。スシローは事実を認めて謝りに来た両親の謝罪を拒否したと伝えられている。ことの重大さを思えば当然だろう。警察に相談した上で被害届を提出。一説によると被害額は最悪の場合100億円に達する可能性もあるという。金額の多寡よりも多数の客の目の前を流れ行く回転寿司、その寿司に他人の唾液がついているかもしれないと想像するだけで寿司が不味くなる。ネットやテレビで流れている迷惑行為の映像を見た寿司好きが、次に回転寿司にいった時何を感じるだろうか。おそらく誰もがこの映像を思い出すだろう。世界で愛される日本食の象徴ともいうべき寿司、その寿司が他人の唾液にまみれてしまったのである。

これはSNSがもたらした脅威だ。デジタル技術の進化で生活全般が便利になったことは確かだろう。SNS時代の到来に文句を言うつもりはない。それどころかこの流れは、それこそ指数関数的に進化するだろう。その速さに誰一人追いつけないかもしれない。人間の脳にPCを直結する実験もすでに本格化している。そんな中で起こった今回の出来事。少年Aの無邪気に戯れる映像が、人間の脳細胞に激しく“拒絶反応”を植え付けてしまう現実を明らかにした。同時進行の“ルティ事件”にもSNSが介在している。SNSで炎上するのは迷惑行為だけではない。強盗も殺人も、もっといえば不特定多数の人間を殺傷する戦争そのものが、激しい勢いでデジタル化している。これを止める解決策は今のところどこにもない。さて、どうする?いずれ登場するAIロボットを誰が、どうやってコントロールするのだろうか。可能性があるのは「人様に迷惑をかけない」というアナログの教え。規範も倫理感も喪失する時代、果たしてプログラミングは可能だろうか・・・。