• ロシアが入手した米国製半導体、ほぼ全てが中国企業経由-RUSI
  • ロシア、第三国を介して外国の半導体・技術を引き続き調達と米欧
Photographer: 731/Getty(2)/Bloomberg

ロシアのウクライナ侵攻を支援するため米国のテクノロジーを使用したとされる秘密のサプライチェーンの中心人物として、米検察当局が訴追したのがアルチョム・ウス被告だ。高級不動産や高級車を保有、イタリアでホテルのオーナーになっているとしてロシアのメデイアに長く登場していた人物だ。

  シベリア中部クラスノヤルスク地方の知事を父に持つウス被告(40)ら7人は昨年10月、米国と米企業を欺いたほか、第三国の仲介者を通じて米国の機密技術をロシアに売却することで制裁に違反したとして逮捕・訴追された。

  米政府は兵器システムに使われる半導体へのロシアのアクセスを遮断しようとしている。ウス被告は不正行為を否定しており、現在はミラノで身柄引き渡しを巡る争いの真っただ中にある。

ミラノの法廷から立ち去るアルチョム・ウス被告(2月27日)Photographer: Daniele Lepido/Bloomberg

  裁判資料からは、米国の締め付けにもかかわらず、ロシアがウクライナ侵攻の何年も前から半導体の供給確保に向けて極秘パイプラインを構築してきたことがうかがえる。

  通関データや起訴状、複数の関係者によると、今やそうした練り上げられた戦術が、ロシアの関係者が解体されたネットワークを再構築し、米国の上場ハイテク企業を欺く上で役立っているという。関係者はメディアに明かす権限がないとして匿名で語った。

  米検察当局はウス被告の組織に意図せず半導体を売却した可能性のある企業を特定しておらず、同被告は現在、ミラノで自宅軟禁されている。

  それでもなおロシアは他のネットワークを通じて軍用技術や半導体を入手できると、米国や欧州連合(EU)の当局者は語る。

半導体

  英王立防衛安全保障研究所(RUSI)が分析し、ブルームバーグが確認した通関データも、アナログ・デバイセズやテキサス・インスツルメンツ(TI)、マイクロチップ・テクノロジーなど大企業が生産した半導体が侵攻開始から数カ月にわたって第三国の企業を通じてロシアの手に渡っていたことを示している。3社は法を順守しており、ロシアには販売せず、同国での自社製品の販売を許可していないとしている。

  ワシントンの法律事務所ワイリー・レインのパートナー兼国家安全保障関連訴訟手続き責任者で、米商務省の高官を務めた経験を持つナザク・ニカクタル氏は「わが国の機密技術の多くが悪者の手に渡っていると想定すべきだ。第三者の仲介者という問題はかなり容易で重要な抜け道だ」との見方を示した。

  米国は長年、ロシアによる軍事関連テクノロジー購入を制限してきたが、昨年2月にプーチン大統領がウクライナ侵攻を開始して以来、こうした制約を急速に強化している。

  ロシアのペスコフ大統領報道官は米国が講じた制限措置について、「国際法の観点から見て合法」とは考えていないとした上で、「一方的で違法な措置でしかない。制裁とは国連安全保障理事会で決定されるものだ」と述べた。

ロシアの無人機「オルラン10」Source: Russian Defense Ministry Press Service/AP Photo

  半導体は戦争の行方にとってますます重要になりつつある。ロシアは半導体を入手するための取り組みを強化しており、ここからロシアの在庫が不十分で、政府の対策では供給不足が解消されそうにないことが読み取れるとロンドンに拠点を置く国際戦略研究所(IISS)のマリア・シャギナ氏は指摘した。同氏は制裁のエキスパートだ。

転売・転用

  ウクライナ政府は、クアルコムやブロードコムなどのハイテク大手に対し、ロシアの衛星測位システム「GLONASS(グロナス)」を支えているとされる半導体の製造を停止するよう公然と要求している。両社の担当者はコメントを控えた。

  アナログ・デバイセズは発表資料で、制裁発動後のロシアとウクライナのロシア占領地域、ベラルーシへの同社製品出荷は、「不当な転売・転用の結果」であり、同社の方針に直接的に反するものだと説明。グレーな市場活動の監視を強化していると明らかにした。

  マイクロチップも制裁対象地域への販売は行っておらず、顧客の選別に努めていると資料で発表。TIは同社の「製品が意図しない用途に使用されることを支持も容認もしない」と資料で表明し、ロシアやベラルーシには販売していないと付け加えた。

  米国が昨年訴追した7人の中にはロシアのアルミニウム企業で働いていたユーリ・オレクホフ被告も含まれている。同被告の弁護士にコメントを求めたが、返答はなかった。

  元米財務省高官で対ロシア制裁策に携わり、現在は法律事務所ギブソン・ダンに勤めるアダム・スミス氏によれば、米国の圧力が強まる中、ロシアは常に新たな抜け穴を探している。

  RUSIの分析によると、最近の通関データで示されるロシアが入手した米国製半導体のほぼ全てが、中国企業によって購入され、最終的にロシアの無人機「オルラン10」の製造元に届いている。

ロシアがウクライナの重要インフラの攻撃に使用したとされる無人機(2022年12月15日)Photographer: Sergei Supinsky/AFP/Getty Images

  事情に詳しい複数の関係者によれば、バイデン政権当局者は中国やアラブ首長国連邦(UAE)などの他国を通じたロシアの半導体調達について懸念を強めている。関係者はメディアに話す権限がないとして、匿名を条件に語った。

  米商務省の報道官は、米国は自国の対応について他国と意思疎通を続け、事態の展開を見守り、「ロシアが自国の戦争マシンを維持するために必要なアイテムを入手するのを阻むために適切に行動する」としている。EUや米国とは異なり、中国とUAEは対ロシア制裁を実施していない。

第三国経由

  あるUAE当局者はブルームバーグへの資料で、「UAEは米国を含む外国のパートナーと結んだ合意に加え、国際法と国連が定める制裁を順守し、厳格に執行している」とし、不正な資金の流れを監視するシステムを導入しており、機密技術を含む製品を監視する高度な税関システムを備えていると説明した。

  中国外務省は半導体の問題を巡る詳細を把握していないとコメント。中国のロシアとの関係について、米国は虚偽の情報を度々流してきたとも主張した。

  米国とEUの当局者は、ロシアがイランやトルコ、UAE、カザフスタンなどの第三国を経由して外国の半導体や技術を引き続き調達していると認識している。

  ウス被告の父親で与党メンバーでもあるアレクサンドル・ウス氏はソーシャルメディアへの投稿で息子に対する訴追について、米国による捏造(ねつぞう)だとして、「その政治的性質は明らかだ」と訴えた。

  米国は昨年12月、ウス親子を制裁対象に加えた。アレクサンドル氏のプレスサービスを通じて同氏にコメントを求めたが、返答はなかった。

アレクサンドル・ウス氏(右)とプーチン大統領(2021年)Photographer: Alexei Druzhinin/Sputnik/AP Photo

  一方で、ロシアは息子のウス被告をマネーロンダリング(資金洗浄)の疑いで指名手配し、同被告の身柄引き渡しを要求。ロシア国営のタス通信は、同被告がミラノの裁判所に対しロシアへの送還を求めたと伝えた。

いら立ち

  米国は制裁によりロシアの半導体輸入は90%減少したと昨年6月に発表したが、米業界団体は今年1月、米国製半導体の「不正取得や偽造を防止するための広範な課題」について警鐘を鳴らした。

  一方、貿易を抑制しようとする米国の取り組みにいら立つロシアは、技術水準が低めの調達しやすい民生用部品の取得に軸足を移していると、ブルームバーグ・ニュースは伝えた。

  RUSIのテクノロジー・安全保障専門家ジェームズ・バーン氏は「意地の張り合いだ。ロシアは半導体を必要としている。軍のプログラムに不可欠で入手せざるを得ず、そのためにはあらゆる手段を講じるだろう」と語った。

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原題:Secret Chip Deals Allegedly Help US Tech Flow to Russia(抜粋)