WBCで侍ジャパンが3大会ぶりの優勝を決めた。おめでとう侍ジャパン。そして感動をありがとう。昨年のサッカー・ワールドカップに次いでハラハラ、ドキドキ。心配しながら応援した。敵味方関係なく全力でプレーする選手の一挙手一投足に魅せられた。明治維新の志士・高杉晋作ではないが「面白きこともなき世」に浸りながら、久しぶりに夢中になって心ふるわせていた。準決勝のメキシコ戦、4対5の1点ビハインドで迎えた9回裏、先頭の大谷が初球を2塁打。一塁ベース手前でヘルメットをかなぐりすて激走、二塁打に。塁上で吠えたのが印象的だった。絶好調4番吉田は敬遠気味の四球。5番、絶不調の村上に順番が回る。吉田はプロテクターを外しながら村上を指さす。「お前が打て」、そう声をかけたように見えた。この時、当の村上は「一瞬バントも考えた」という。

「ムネにすべてまかす」、栗山監督の一言で吹っ切れた。1球目を強振して空振り。そのあとの2球目、鋭く振り抜いた打球はセンターオーバーのあわやホームランかという2塁打。大谷に次いで代走の周東もホームを踏んで逆転サヨナラ勝ち。決勝進出を決めた一瞬だ。この時、村上の復活を喜びながら目に涙が滲んできた。久しぶりに感動している自分がいた。これが野球に限らずスポーツの醍醐味だろう。野球ファンのみならず野球を知らない人たちに感動のドラマを提供する。感動しているのは観客だけではない。選手も一丸となって戦い、不振な選手の気持ちを共有し、復活の興奮を感じ取っている。チーム一丸となって山を越え谷も越えた。「スポーツは感動を生み出すマシーンだ」、そんな思いが頭をよぎる。もちろんその裏に敗者はいる。そこに宿る悔しさ、これが次の感動を生み出す踏み台になる。

思えば大谷に始まり大谷に終わったWBCだった。MVPは当然だろう。だが、大谷だけではない。ヌートバーはあっという間にチームに溶け込んだ。メキシコ戦、吉田の3ランは圧巻だった。近藤も岡本もよく打ちよく守った。「三笘の1ミリ」に匹敵する「源田の1ミリ」、運も味方した。タッチを掻い潜ったメキシコ・トレホ選手の技も見事。投手陣は世界一。侍ジャパン優勝の立役者は投手陣でもある。若手にも目を見張る選手がいっぱいいた。佐々木朗希はいずれ日本を去るだろう。日本中を覆った一瞬の感動。この感動を若い青少年が引き継いでくれれば日本は安泰かもしれない。それにしても大谷は凄い。それ以上の言葉はない。大谷はどんな少年時代を過ごしたのだろうか。野球少年だったに違いない。ダルビッシュは「大谷の本当にすごいところは表に出ていないところ」と言っていた。そこに日本人の可能性があるような気がする。侍ジャパンありがとう。