先週行われた米中首脳会談は、表面的な友好ムードとは裏腹に、水面下で深刻化する政治的対立が際立つものとなった。

習近平主席は会談の冒頭で「トゥキディデスの罠」を持ち出し、対等な米中関係の未来像を突きつけた。これに対してトランプ大統領はいつもの調子ではぐらかし、習主席を歯の浮くような「おべっか」で称賛した。習主席が「堂々としていた」のに対し、トランプ大統領はまるでボスの機嫌をとるゴマスリ男のようにも見えた。

これは会談の冒頭であり、テレビカメラも入っている場面だ。両国の事務方は事前に入念な打ち合わせを重ねていたはずであり、おそらく発言内容は双方が了解済みだったのだろう。習氏の「トゥキディデス」発言も今回が初めてではない。とすれば、米国側は最初から大統領の「おべっか」発言をシナリオに組み込んでいたことになる。

なぜか。政治的な対立が容易に解けないことは分かっていたからこそ、まずは経済的な果実を狙いにいったのだろう。要は「政経分離路線」の徹底だ。だが、その頼みの経済的効果も相変わらず不透明なままである。

ディールの要は成果だ。では、具体的な成果はあったのだろうか。

それを象徴するのがボーイングの旅客機200機に関する発表だ。本来なら称賛を受けるはずの発表であったにもかかわらず、株価は下落した。レアアースも農産物も関税も、先行きに透明感がない。

では、米国は負けたのだろうか。おそらくそうではない。イラン戦争の対応に忙殺され、十分な準備が整わなかったのだ。トランプ氏の方針も揺らいでいる。だからこそ、当面を糊塗する「おべっか作戦」に打って出たのではないか。つまり、勝負を9月にホワイトハウスで行われる首脳会談へと先延ばししたのだ。

このトランプ氏の不甲斐なさをカバーするかのように、裏で黒子となって蠢いていたのがベッセント財務長官である。だが、これに関する情報はほとんど表に出てこない。穿ち過ぎかもしれないが、情報がないことにこそ意味がある。

ことは米国の安全保障に関わっており、当然ながら経済安保にも直結している。そして日本もまた、この動きに巻き込まれているのだ。ベッセント氏は首脳会談の前に日本と韓国に立ち寄っている。韓国では、中国の何立峰副首相(経済担当)と長時間にわたり話し込んだという。一体、そこで何が語られたのだろうか。

日本においてベッセント氏は、高市総理、片山財務相と会談を行った。誰もが為替問題について話し合われたと考えているが、果たしてそうだろうか。ここにこそ米国の“野望”が隠されているのではないか。

そう考えると、表舞台の首脳会談は形骸化していても良かったのだ。華やかに仰々しく、なおかつ友好ムードで盛り上がりさえすれば、メディアの関心を惹きつけるという目的は達成される。

本当の影の主役はベッセント氏だ。しかし公式な情報はない。参考になるのは、日本で高市氏や片山氏と会談した際の発表だ。公式には為替問題や世界情勢について意見交換したとされているが、その中に「サイバー空間の脅威に対し、同盟国・同志国が連携して対応することの重要性について認識が一致しました」という1項目がある。

ここで直感的に思い浮かぶのが、AIスタートアップのアンソロピックだ。同社が開発した高度なサイバーセキュリティ・ソフトが、日本でも使用解禁されたのである。これまで「ミトス」と呼ばれるこのソフトを使用できたのは、米国の有力企業約50社と英国に限られていた。その特権的な枠組みに、日本も組み込まれたのだ。これが何を意味するのだろうか。

専門家の検証によると、最も堅牢とされるAppleのmacOSにおいて、ミトスは2つの小さなバグを自律的に繋ぎ合わせて突破する「チェイン攻撃」に成功し、メモリを完全掌握できる脆弱性を発見したと報道されている。

ミトスは単なる「防御」のためのツールではない。もしこれを「攻撃」に転用すれば、とんでもない事態が起こる可能性を秘めている。日本がその使用を認められたということは、これはもはや完全に安全保障、ひいてはサイバー戦の領域に関わる問題なのだ。米中首脳会談の重要性は、一切報道されない水面下の動きにある。