米国とイランによる報復の応酬が停戦協議の破綻に直結するのか、注視されていた。結論から言えば、その懸念はひとまず杞憂に終わりそうだ。ホルムズ海峡におけるイラン側のタンカー攻撃などは、戦略的にも失策と言わざるを得ない。この攻撃に対し、米軍の報復措置によってイラン軍兵士8人が死亡した。

背景は不透明だが、これはイラン革命防衛隊による突発的かつ感情的な攻撃であったと推測される。これに対するトランプ大統領の発言は極めて激情的だ。停戦協議は「終わりだ」と断言し、イラン指導部に対しては「病んでいる」「社会のガンだ」「彼らとは一切関わりたくない」「早期に排除すべきだ」と罵倒の限りを尽くした。さらに「発電所等の破壊」や「海上封鎖」の再開も明言した。

こうした発言を受ければ、停戦協議は完全に決裂し、原油価格が再び急騰すると考えるのが自然だ。世界規模でインフレが加速し、経済が再度の混乱に陥る懸念も生じる。かつて8年間続いた「イラン・イラク戦争(通称:イライラ戦争)」の二の舞を恐れる声も上がり、軍拡競争の激化によって市民生活が圧迫される事態に、「いい加減にしてほしい」と誰もが思うだろう。

だが、そのような懸念はあっけなく裏切られる。NATO首脳会議終了後の記者会見で、トランプ氏は米軍の攻撃について「すぐに収束するだろう。(攻撃は)イランによる数隻の船への襲撃に対する、われわれの強力な反撃だ」と淡々と説明した。さらに「石油産業を含め、状況はより安全になる」と、手のひらを返したかのような楽観的な展望を語った。

整理しよう。イランのタンカー攻撃に激昂したトランプ氏は、その怒りを「終わりだ」とぶちまけた。「以前の指導者は去り、今は別の指導者がいるが、彼らもいなくなるかもしれない。私自身もいなくなるかもしれない。私はイランの暗殺リストの1位だからだ」と、鬱屈した心情を吐露した。

さらに「イラン指導部と交渉すべきか確信が持てない」「狂人に核兵器を持たせてはならない」と、不安定な胸の内をさらけ出した。市場はこれに敏感に反応し、株価は下落、債券利回りは上昇、そして原油価格が急騰した。

しかし、激しい発言を繰り返したトランプ氏だが、NATO首脳会議後の会見では平静を取り戻した。「戦争再開の可能性は低い」と前言を翻し、報復合戦は「すぐに終わる」と軌道修正したのである。それだけではない。少し前までイタリア、フランス、ドイツ、スペインなどのNATO加盟国を罵倒していたにもかかわらず、「会議を通じてすさまじい一体感(tremendous unity)があった」と持ち上げる始末だ。

まるで英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が作成したとされる、「TACO(Trump Always Chickens Out:トランプ氏はいつも尻込みする)」という造語を体現しているかのようだ。今後も得意の「手のひら返し」が終わる保証はどこにもない。

結局、「終わり」という発言も単なる“口撃”に過ぎなかったのか。武力衝突を上回るほどの口撃合戦。国際政治の常套手段とはいえ、それによって失われた兵士の命は救われない。強権的な「脅し政治」に対する世界中の市民の不信感は、深まることはあっても弱まることはないだろう。