西部邁さん=東京都新宿区で2018年1月11日、鈴木英生撮影

 今年1月に自殺した評論家、西部邁(すすむ)さん(当時78歳)の自殺を手助けしたとして、警視庁捜査1課は5日、埼玉県上尾市富士見2、会社員、青山忠司(54)と東京都江東区福住1、会社員、窪田哲学(45)の両容疑者を自殺ほう助容疑で逮捕した。両容疑者は容疑を認めており、窪田容疑者は「先生の死生観を尊重して力になりたかった」と供述しているという。

同課によると、青山容疑者は西部さんが主宰する塾の塾頭をしていたことがあり、窪田容疑者は西部さんが出演していた東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の子会社の番組担当者だった。逮捕容疑は1月21日未明、東京都大田区田園調布5の多摩川に西部さんを連れて行き、体にハーネスを装着させるなどして自殺を手助けしたとしている。

 同課によると、遺体発見時、西部さんの体のハーネスと川岸の木がロープで結び付けられていた。西部さんは病気の影響で両手が不自由だったことから、何者かが手助けしたとみて捜査。同日未明に新宿区内で西部さんと一緒に歩く窪田容疑者の姿が防犯カメラに映っていた。

 西部さんの遺書のうち1通は捜査関係者に宛てて「自分の意志による自殺です」という趣旨のことが書かれていたという。西部さんは4年前に妻を亡くし、自殺を口にするようになっていた。

「申し訳ない」西部さんの長女

 西部さんの長女の智子さん(49)は東京都世田谷区の自宅で取材に応じ「2人とも父を慕ってくれていた。なぜ自殺を手伝ってくれと頼んだのか、申し訳ない」と声を詰まらせた。西部さんと青山容疑者は20年来、窪田容疑者は10年来の付き合いだったという。【竹内麻子】【春増翔太、山本佳孝、土江洋範】

窪田容疑者、熱心な「信者」

 「口数が少なくて穏やかだが、内に熱いものを秘めている人だと思っていた」。西部さんが自殺直前に訪れていた新宿区のバーのママは、窪田容疑者の印象をそう振り返る。西部さんと窪田容疑者は1カ月に1度は他の仲間と連れ立って来店する常連だった。

 MXの関係者によると、窪田容疑者は局内でも「西部さんの熱心な信者」として知られ、討論番組「西部邁ゼミナール」を担当していた。番組には青山容疑者がゲスト出演することもあった。この関係者は「追悼番組も3月31日に放映したばかりだった。番組製作に携わるスタッフが事件を起こしていたことが信じられない」と話した。

 西部さんは最近の著書で「これまでに3度自死の準備に取り組んだが、予期不可能な事態で頓挫した」などと語っていた。捜査1課によると、窪田容疑者が自殺に使われたハーネスを用意し、青山容疑者がレンタカーを借りたという。【神保圭作】

【ことば】自殺ほう助

 自殺を決意している人に対し、道具や方法を提供するなど、自殺を容易にする手助けをすること。刑法202条(自殺関与及び同意殺人)に規定されており、法定刑は6月以上7年以下の懲役または禁錮。