世界中で注目されていた米国の7月消費者物価指数(CPI)が発表された。ロイターの記事のリードを引用する。
「米労働省労働統計局が12日発表した7月の米消費者物価指数(CPI)は前年比3.4%上昇した。前月の3.5%上昇から小幅鈍化し、市場予想と一致した。ガソリン価格は2カ月連続で下落し、基調的なインフレも落ち着きを示したことで、米連邦準備理事会(FRB)が9月に利上げに踏み切る可能性は低下した」
基調的なインフレを示すコアCPIは、値動きの激しい食品とエネルギーを除いた指数だ。こちらも前年比2.5%上昇したが、伸び率は6月の2.6%から鈍化した。全体としては、エネルギー価格の下落が物価上昇率を抑え込んだ形だ。先週発表された7月の雇用統計では雇用情勢の弱さが示されたが、CPIもこれに沿う形で落ち着きを見せている。
これによって米国経済は、景気の伸びが鈍化する一方、雇用や物価が落ち着きを取り戻す展開となっている。とはいえ、この傾向がこの先も持続する保証はない。
現に、イラン戦争では、イランがここに来て強硬姿勢を見せている。加えて、ロイターの報道によると、ロシア南部クラスノダール地方の黒海沿岸にある主要港ノボロシースクで、国内最大規模の2つの穀物ターミナルが11日夜から12日未明にかけてウクライナのドローン(無人機)攻撃を受け、稼働を停止した。
物価高騰への懸念で真っ先に取り上げられるのは原油価格だ。それはその通りだが、ウクライナ戦争の影響で穀物輸出に支障が出れば、世界の食料価格にも一段と上昇圧力がかかるだろう。
ロイターによると、ロシアは世界有数の小麦輸出国で、その輸出の多くがノボロシースクのような黒海沿岸の港から行われている。このため、世界の穀物市場では供給混乱への懸念が高まっている。実際、今回の攻撃を受け、シカゴの小麦先物価格も上昇した。
米国は言わずと知れた原油・穀物の生産大国だ。ホルムズ海峡が閉鎖されても、ロシアの穀物輸出が制限されても、他国に比べれば国内の物価への直接的な影響を抑えやすい。しかし、グローバル市場で動く金利はそうはいかない。物価が落ち着きを取り戻しても、長期金利の上昇圧力が簡単に消えるわけではない。
ベッセント財務長官は、日米の協調による為替市場への介入などを通じて、金融市場の安定を図る戦術に出ている。一方のトランプ大統領は相変わらずFRBに対し、短期金利である政策金利の引き下げを陰に陽に求めている。長期金利と短期金利という違いはあっても、金利を抑制したいという方向性には共通する部分がある。
とはいえ、戦術的には若干の違いがある。米国の金融政策、為替政策、そして日本の金融政策を含め、金利抑制に向けて統一戦線を組む必要はないのか。今後の焦点の一つになりそうだ。なお、日米は先に異例の協調為替介入を実施しており、ベッセント財務長官は日本銀行の追加利上げにも言及している。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ウクライナ戦争の終結に向け、米国の交渉担当者に和平案を提示したと報じられている。8月11日には、ウクライナが米国側に戦争終結に向けた提案を提出したことをゼレンスキー氏自身が明らかにした。
これを機に戦争の停戦協議が進めば、長期金利の上昇圧力にも好影響を与える可能性がある。
半面、停戦協議が続いているはずのイラン戦争では、ここに来てイランが再び強硬姿勢を強めている。ホルムズ海峡をめぐっても緊張が続いており、米国とイランの協議が進展する一方で、合意の行方は依然として不透明だ。
こうした中で、6月、7月と2カ月連続で落ち着いていた米国のCPIについても、「8月は伸びが加速する」との見方がエコノミストの間で強まっているようだ。特に原油価格は中東情勢の影響を受けやすく、7月CPIにはその後のエネルギー価格上昇が十分に反映されていないとの指摘もある。
一説によると、トランプ政権とウォーシュFRB議長の間では、金融政策をめぐる指導権争いも水面下で続いているようだ。ウォーシュ議長はFRBの政策運営において、従来よりもフォワードガイダンスを抑え、市場の判断を重視する姿勢を示している。
FRBの9月利上げの可能性と、イランとの停戦協議の行方。この2つの問題を丸く収められるのか。中間選挙を前に、トランプ氏の政権運営能力が改めて問われる局面になってきた。