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「限りなく廃刊に近い休刊」 新潮45を追い込んだ怒り<朝日新聞デジタル>2018年9月26日05時01分

「謝罪ではない」とした社長声明から4日後、新潮社は月刊誌「新潮45」の休刊を決めた。35年以上の歴史を持つ雑誌の発行を断念した背景には何があったのか。最も重い「休刊」という判断は妥当だったのか。

25日夜、東京都新宿区の新潮社周辺では、ツイッターなどでの呼びかけに応じた100人ほどによる抗議活動があった。参加者は、「NO HATE」「心をペンで殺すな」「新潮社は恥を知れ」などと書かれたプラカードを静かに示した。出版関係企業に勤める30代の会社員は「LGBTの人たちに対するヘイトは認められない」と話した。

「謝罪ではない」としていた21日の社長声明から、一転して休刊に追い込まれた背景には、新潮45に対する世論の怒りが収まらなかったことがある。新潮社の本を店頭から下げる動きを見せる書店が出たり、一部の作家が新潮社への執筆取りやめを表明したりするなど、批判が広がっていた。

関係者によると、新潮社では25日朝、50人ほどの社員有志が取締役会に要望書を提出した。謝罪の言葉を発表すること、責任の所在を明らかにして、再発防止策をとることを求めたという。また、連休中に海外の作家にも批判の声が広まったといい、「築いていたものが一晩で崩れていく感じだった」と話す社員もいた。

25日夜に報道陣の取材に応じた新潮社の伊藤幸人・広報担当役員は、「限りなく廃刊に近い休刊。部数低迷で編集上の無理が生じ、十分な原稿チェックができなかった」と述べた。一方、「(自民党・杉田水脈(みお)衆院議員の寄稿を掲載した)8月号だけでは休刊の決定はしていない。10月号に問題があると考えている」とした。

伊藤氏によると、編集部は編集長を含めて6人。18日発売の10月号は前日に刷り上がり、役員らへの配布は発売日の朝だったという。「18日の時点で声明を出す必要があると社長が決断した。社内外で動揺が走っており、結論は出ていなかったが声明を出した」

一方、社長声明にあった「あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現」が具体的にどの寄稿を指すかについて、伊藤氏は最後まで明言しなかった。10月号に掲載された寄稿の中には、LGBTを「ふざけた概念」とし、犯罪である痴漢行為とLGBTの生きづらさを重ねる内容もあった。

新潮45は月刊「文芸春秋」のような総合雑誌をうたい、1982年に前身の雑誌が創刊された。週刊新潮や写真週刊誌「FOCUS」(2001年休刊)と並び、文芸で知られる同社の中で「社会派」の一翼を担ってきた。事件報道を重視したノンフィクション路線だったころもあったが、現在の若杉良作編集長が就任した16年9月号から、右派系雑誌常連の論客が目立つように。近年はネットでの過激な発言で注目を浴びる論者を次々と紹介するようになっていた。

ログイン前の続き表現をめぐって雑誌が廃刊した例として、1995年に「ナチ『ガス室』はなかった」とする記事を掲載した文芸春秋の月刊誌「マルコポーロ」がある。

常連執筆者「ある程度予想していた」

突然の休刊に新潮45の連載執筆者や業界関係者からは、批判や落胆の声が上がっている。

「まず何よりも差別的な記事を掲載した責任をおわびし、記事に傷ついた人たちに謝罪してほしい」

最新号にも連載を寄稿するなど長年の常連執筆者だったコラムニストの小田嶋隆さんは、新潮社は発行元として、休刊以前に取るべき対応があったと指摘。また、同社が、自らの責任で掲載した記事について「常識を逸脱」などと述べている点にも触れ、「著者を守るべき出版社としておかしい」と批判した。

小田嶋さんは新潮45について「現在の編集長になって誌面ががらりと変わった。それまでは左右のバランスがとれた誌面だったが、右派雑誌の執筆陣をごっそり持ってくるようになり、あまりに唐突な方針転換で、このまま無事では済まないとある程度予想していた」と振り返る。

出版事情に詳しいライターの永江朗さんも「出版社は言論機関。本来ならば、社外からの批判をどう受け止め、どう反省しているのかを、特集号をつくってから休刊するのがベストだったと思う」と語った。

永江さんは、新潮45の部数が下落する中で、「編集部がインターネット上で注目を浴びやすい過激な発言に引っ張られる形で、特集づくりをすすめ、会社としてその『暴走』を止められなかったのではないか」と指摘。ただ、今回の企画や自民党の杉田水脈・衆院議員の寄稿は「残念ながら他の出版社が出している雑誌や書籍でも見られるレベル。日本の言論で差別的な表現の許容度が上がってしまっている」と懸念を示す。

ある論壇誌の元編集長は今回の休刊に「突然ではあるが予想はできた結末」と語る。「(10月号の企画は)ひどい中身だとは思ったが、もうまともな雑誌をつくる人員や予算がないのだろう」とも語り、「雑誌をつくる側からみると、経営側が十分な体制をしいてくれないのに、結果を求められた末にこうなったと思う」と語った。

一方、杉田氏の寄稿を受け、ブログで同性愛者であることを公表した日本文学研究者のロバート・キャンベルさんは「経営的な面から休刊というのであれば、妥当だと思いますが、外からの圧力で休刊になるのは望ましくない。編集部が判断して、掲載した以上は反論・批判し合う形があるべき姿だと思う」と述べた。

また、休刊でこの問題が幕引きとなることを危惧する。「新潮社は日本の重要なメディアの一つで、休刊というのは非常に重いことですが、休刊したからこの問題が終わりでは短絡的です。ヘイトに近い断言や事実がゆがめられたものが、どういう過程を経て出されたのか検証することが大事なことではないか」とも話していた。

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