貴の岩がきのう付け人に暴力を振るった。相撲協会は巡業中の貴の岩を東京に呼び戻し、処分が決まるまでの謹慎を命じたようだ。昨年、横綱・日馬富士の暴力で頭に何針も縫う大怪我をした被害者の貴の岩が、一転暴力を振るう加害者になってしまった。この間何があったのか今のところ詳らかではない。忘れ物をした付け人が言い訳をしたのでカッとなって4〜5発平手と拳で殴ったようだ。被害者の頬は腫れていたという。今朝、テレビは情報番組で早速この問題を取り上げていた。すべての局をみたわけではないが、暴力絶対反対の立場から各局とも貴の岩に厳しい扱い方をしている。相撲協会もテレビ局と同じように厳しい姿勢を示している。

被害者だった貴の岩が起こした暴力事件、ならびにそれを報道する各テレビ局の報道ぶりをみて、朝からうんざりしている。何をかいわんやという感じだ。貴の岩にたいする否定的な感情と同時に、「暴力絶対反対」の立場から貴の岩批判を繰り返すキャスターやコメンテーターの一言一言に、素直に耳を傾けられないのだ。「どんなことがあっても暴力は絶対ダメ」、女性コメンテーターの発言に、「そんなことは誰でもわかっている」と心の中で反撃する自分がいる。誰が見ても正しい発言だが、正しいとわかっていても受け入れたくないことがある。天邪鬼といえばそれまでだが、相撲協会に巣食っている“暴力”はそんな一般的な物言いで解決しないだろうとも思う。貴の岩を擁護するつもりはないが、メディアの報道の仕方も納得がいかないのだ。

じゃあどうする。答えなんかあるわけがない。みんながダメというからとりあえず貴の岩の立場になって考える。暴力沙汰で心に傷を負い、一端幕下まで落ち、それでも自分を奮い立たせて何とか這い上がってきた。幕内に復帰して好成績を収め、先場所は三役が狙える場所で負け越した。優勝したのは弟弟子の貴景勝だ。日馬富士を相手取った損害賠償請求裁判は、モンゴルで想像以上のバッシングを浴びて取り下げた。さあこれからという時に、自ら受けた暴力以上に心に深い傷を負ったのかもしれない。胸の内にやりきれない虚しさと苛立ちが鬱積する。それでもテレビのコメンテーターは貴の岩に「我慢しろ」と要求する。貴の岩は聖人君子か。分かっていてもやってしまうことがある。人間の弱さであり、至らなさだ。そんな人間を「絶対ダメ」と批判するテレビ局。言葉は暴力ではないのか……。