ゴーン前会長を巡る資金の流れ

 日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(64)=金融商品取引法違反、会社法違反で起訴=が最初に逮捕・勾留されてから、26日で100日。東京地検特捜部は、前会長の指示でオマーンの販売代理店に約35億円が送金された経緯などについて捜査を続けている。日産関係者は「送金理由は『後付け』だった」などと説明しており、特捜部は送金が前会長の私的な借金返済目的だった可能性があるとみている模様だ。

 前会長の会社法違反(特別背任)での起訴内容は、2008年のリーマン・ショックの影響により新生銀行との私的取引で多額の損失を出し、約18億5000万円の評価損を含む契約を自身から日産に付け替えた▽契約を自身に戻す際、信用保証に協力したサウジアラビアの知人に09~12年、子会社「中東日産」から計1470万ドル(当時のレートで約13億円)を送金し、日産に損害を与えた――とされる。

 サウジアラビアの知人に送金された約13億円は、前会長の裁量で支出できる「CEOリザーブ(予備費)」が原資。関係者によると、CEOリザーブからは他にも中東日産を経由し、オマーンの代理店に計3200万ドル(現在のレートで約35億円)、レバノンの代理店に計1560万ドル(同約17億円)が送金されている。いずれの代理店のオーナーも前会長の友人という。

 このうち、オマーンの代理店には12年以降、複数回の送金があった。前会長はこれに先立つ09年、オマーンの代理店オーナーから約30億円を借り入れ、新生銀行に追加担保として約22億円を差し入れている。特捜部は借り入れの際に前会長がサインしたとみられる借用書も入手。CEOリザーブのオマーンへの送金が、私的な借金返済目的だった可能性があるとみている模様だ。

 関係者によると、この経緯について、中東日産関係者は「『(前会長が)歳末ボーナスの時期だ』と言っているので(後付けの送金理由として)シナリオを作ってほしい、と日本にいる上司からメールで指示された。正当な支払いとは言えない」と特捜部に説明しているという。

 一方、レバノンにはCEOリザーブからの約17億円に加え、中東日産から12~16年に販売代理店の子会社に計3000万ドル(同約33億円)が融資されていたという。中東日産の関係者は特捜部に「前会長の指示で送金した。(オーナーが)販売代理店の株を買い増し、意思決定を迅速に進められるようにするためだと説明されたが、全額がその通りに使われたかは分からない」などと話している模様だ。融資の大半は未返済の状態という。

 特捜部は、この2国への送金を中心とした不透明な資金の流れを解明するため、中東各国に捜査共助を要請している。検察幹部は「海外の資金の流れはブラックボックス。どこまで追えるか分からないが、私的流用の可能性がある以上、捜査を尽くしたい」と話す。

 ゴーン前会長の起訴内容について、新たに弁護人に就いた弘中惇一郎弁護士は20日に報道陣の取材に応じ「無罪を確信している」と述べたが、具体的な主張内容は明らかにしなかった。【巽賢司、遠山和宏、金寿英】