中国・武漢市で発生した新型のコロナウイルスによる肺炎の拡大は、中国での経済活動を停滞させ、流通業や製造業など幅広い日系企業にも影響を及ぼし始めた。多くの店が閉まり、工場の操業停止も長引く。景気の先行きにも影を落としそうだ。日系の主要企業にはどんな影響が出ているのか。

ユニクロは160店休業

 流通業では、物流の停滞などからすでに大きな影響が出ている。

 「カレーハウスCoCo壱番屋」を手がける壱番屋(愛知県一宮市)は30日時点で武漢市を含む中国本土の計50店を、臨時休業にしたり営業時間を通常より3~4時間短縮したりしている。出店先の商業施設が短縮営業などをしているためで、「いつまで続くか分からず、売り上げへの影響が気がかり」(広報)という。

写真・図版

拡大する中国国内にあるカレーハウスCoCo壱番屋の店(壱番屋提供)

 「焼肉きんぐ」などを展開する物語コーポレーション(愛知県豊橋市)は、27日から中国国内の全18店の営業を停止。2月10日までの予定だが、広報担当者は「状況によっては延長もありえる。現地では物流がまひしている」と話す。

 外食事業も手がけるJR九州は、上海市内で3店舗の居酒屋を展開している。2月2日までの休業予定だが、再開は「決まっていない」(幹部)。一部の店舗でデリバリー業務を先に再開したが、利用は低調で中止しているという。

 ファーストリテイリングは中国で展開する「ユニクロ」の臨時休業店が30日時点で約160店に増えた。昨年末時点で中国に750ある店舗の2割以上を占める。良品計画も29日時点で中国国内の「無印良品」50店を休業中。中国には今年1月時点で265店があり、2割近くに達する。

操業再開、続々と延期

 製造業への影響はどうか。

 中国の現地当局が春節休暇を延長するよう要請し、工場の操業開始を延期する日系企業も相次ぐ。

 食品大手の明治は、上海市の菓子工場と、広東省広州市の菓子とアイスクリームの計3工場の生産停止を延ばす。当初は春節の連休中の予定だったが、広州は2月9日、上海は11日まで止める。

 衛生陶器のTOTO(北九州市)は30日、中国内の全7工場の休業期間を延長することを決めた。もともと上海市の2工場を対象としていたが、全土に広げた。便器や温水洗浄便座「ウォシュレット」、水栓金具などを作る工場で、いずれも2月9日まで休業して、10日の再開をめざす。

 NECは上海地区などの関連会社の工場で、春節明けの操業再開を10日ほど遅らせる方針を明らかにした。NECの森田隆之副社長は29日、問題が長期化すれば「部品調達などに影響が出る可能性がある」と指摘。現在、影響を精査しているという。オムロンも上海市にある電子部品などの2工場の休暇を9日まで延期することを決めた。

 自動車大手ではホンダが30日、中国全土の工場や研究開発拠点について、営業再開を2月10日~14日まで延期すると明らかにした。ホンダは中国国内に計年120万台の生産能力のある四輪車工場と、210万台の生産能力の工場がある。停止が長引けば業績にも影響を与えそうだ。

写真・図版

拡大する武漢市にあるホンダの工場。新型肺炎の影響は武漢市以外の中国の工場にも及びそうだ=昨年4月、友田雄大撮影

 トヨタ自動車も中国国内の工場の春節休暇明けの操業再開延期を決め、系列の部品メーカーにも影響が広がる。スイッチ類などをつくる東海理化(愛知県大口町)はトヨタにあわせ、天津など中国国内にある3工場の稼働を2月9日まで止める。西田裕取締役は「非稼働が短期ならリカバーがきくが、長期にわたれば業績への影響が出てくるのではないか」と話す。

 ばね製品などを生産する中央発条(名古屋市)は武漢近郊にある工場の稼働を12日まで停止し、天津などほかの工場もトヨタにあわせて操業を止める。

 点火プラグ大手で上海周辺に2工場を持つ日本特殊陶業は、2月9日まで現地工場を止める方向だ。中国向けの製品を組み立てており、再開が遅れるようなら現地の自動車生産にも影響が出かねない。日本での代替生産については「具体的なアクションは起こしていないが、状況により検討しないといけない」(広報)という。

景気に暗雲

 景気の先行きにも影を落とす。

 日本商工会議所の三村明夫会頭は30日の定例会見で、武漢市だけでも自動車産業を中心に日本企業に200社が進出しているとし、「長期に及んだ場合、中国から各地に輸出するサプライチェーン(製品供給網)の問題がでてくる。大きな影響を与える」との懸念を示した。

 中国と各国を結ぶ航空便も減り、人的移動の制限に伴い経済活動にブレーキがかかるおそれもある。

 ANAホールディングスは30日、中国発の2月の予約が旅客数で前年同期より5割減ったと説明。国際線の売り上げに占める中国便は1割強だが、影響が長引けば業績に影響が出そうだという。

 米ユナイテッド航空は米国と北京、上海、香港を結ぶフライトを2月1日から8日まで減らすと表明。アメリカン航空はロサンゼルスから北京、上海をつなぐ便の運航を2月9日から3月27日まで休止した。ロシアでも地方を拠点とする航空会社が相次いで中国便の運航を止めた。

 これらの動きを背景に中国では経済への深刻な影響が広がりつつある。中国政府のシンクタンク・中国社会科学院の張明・世界経済政治研究所研究員は経済誌「財経」で2020年1~3月期の実質経済成長率について「5・0%前後だろうが、それ以下も排除しない」と予測。19年10~12月期の成長率は6・0%で1ポイント以上の鈍化を見込む。

写真・図版

拡大する中国・武漢市内のスーパーで25日、マスク姿で買い物をする住民ら=AP

 証券会社の野村国際(香港)の陸挺氏は「影響はSARSの時を超える。(鈍化の幅は)2ポイント以上となるかもしれない」とのリポートを発表。新型肺炎が発生しなかった場合を19年10~12月期の成長率と同じ6・0%だとすると、3%台という歴史的な水準に落ち込む見立てだ。

 中国経済の減速が現実になれば、現地の生産体制を強化している製造業や、市場開拓を加速している外食や小売りといった日系企業の業績に打撃を与えかねない。