大坂なおみ選手の記者会見拒否が大きな喧騒を巻き起こしている。賛否両論が渦巻いている。ネットでは大坂選手の行動を非難する声が多いような気がする。アスリートの中にも記者会見は当然の義務だとする意見がある。個人的にはちょっと違う感想を抱いている。プロテニスという興行組織が、選手を“商品”としてしか扱っていない実態が浮き彫りになった、そんな気がする。大坂選手が訴えているメンタルヘルスなど一顧だにしない興行システム。お客様やスポンサーが神様なのだ。記者会見は神様への配慮だ。それができないなら4大大会への出場資格を剥奪する。これは明らかに脅しだ。パワハラの最たるものだ。女性蔑視の森発言よりも質が悪い。プロスポーツが商業ベースで運営されていることに異を唱えるつもりはない。だが、LGBTを持ち出すまでもなく時代は心への配慮を求めている。4大大会の主催者は時代の変化に乗り遅れている。最悪だ。

大坂選手は31日、自身がうつ病で悩んでいることを公表すると同時に、全仏オープンを棄権するとツイッターで表明した。これを受けて主催者は公式ホームページに、「大坂選手が全仏オープンを棄権することは非常に残念だ。彼女の早い回復を祈るとともに来年の大会に参加してくれることを楽しみにしている」(NHK)と書き込んだ。大坂選手の訴えをまるで理解していない。自由と平等と人権を大切にするフランスのテニス協会とはとても思えない。アスリートを商品としてしか扱ったことのない組織の限界だろう。選手のメンタルをどう扱えばいいのか、まるでわかっていない。しかも大阪選手はうつ病だ。うつ病患者に対して絶対にやってはいけないこと、それは恫喝したり脅したり、非難することだ。逆にやるべきこと、それはアスリートの訴えに真摯に耳を傾けることだ。全仏の主催者は真逆のことをやっている。

同じような状態はスポーツ界全体にあるのだろう。酷暑の7月に東京で五輪を開催しようとするIOCは、アスリートファーストを唱えながら最初からアスリートの心を踏み躙っている。スポーツイベントが商業ベースである限り、ファンやスポンサーへの配慮が欠かせないことはよくわかる。だからといってアスリートのメンタルを無視して良いわけではない。アスリートは肉体を鍛えるロボットではない。心技体を整えるために日々過酷な訓練をし、競技を通してその成果を披露する表現者なのだ。表現する意志は健康な心が支える。全仏オープンを主催するフランス・テニス連盟(FFT)のモレトン会長には、その辺がまったく視えていないようだ。同氏の同類は世界にごまんといる気がする。モレトン会長よ、今からでも遅くはない。大坂選手の横に座って、彼女の心の叫びに静かに耳を傾けるべきだ。