エンゼルスの大谷翔平がきのうのタイガース戦で40本目となる節目のホームランを放つと同時に、投手としても8勝目をあげた。リーグ戦はまだかなりの試合数が残っている。いずれの記録も単なる通過点。YAHOOニュースに長文の賞賛記事が掲載されているが、野球を離れても大谷は織田信長に匹敵する改革者だという気がする。国際的な潮流に乗り遅れ、低迷する日本にどうしてこれほどの創造的破壊者が生まれたのか不思議な気がする。遠くに大谷を眺めながら日本経済を考えるのも一興か。いずれにしても大谷は野球にとどまらず日本やアメリカの未来を先取りしている。YAHOOニュースによると「二刀流での勝利&本塁打はメジャー4年目にして初だ。まるで劇画のような“大谷ショー”に全米メディアは賛辞の嵐。MVPに加えサイヤング賞候補の声まで出始めた」と伝えている。

たまたま読んでいた冨山和彦氏の「コーポレート・トランスフォーメーション」(日本の社会をつくり変える)という本の中に次の一説がある。「真の創造、経営的イノベーションは破壊なくして成しえない。人類の社会的進歩の歴史は革命の歴史であり、革命とは破壊と創造である。中大兄皇子や藤原鎌足しかり、源頼朝しかり、織田信長しかり、そして大久保利通や西郷隆盛しかり、破壊の心を担った人物の心には鬼が住んでいる。将来世代のためにも、経営世代の私たちは心を鬼にして破壊王世代になるべし!」(P.102)。大谷のこころに鬼はいないようにみえるが、やっていることは鬼そのものだ。常識では考えられなかった二刀流。高校野球ではない、大リーグだ。そこに止まればまだしも、大谷の走塁は大リーグの中でも群を抜いている。投手で盗塁するのも型破りだが、普通のヒットを二塁打にしてしまう走力は大リーグの守備陣には脅威だろう。大谷は守備と走塁の常識を破壊している。

世界の最先端を走っていた日本経済だが、気がつけばいつの間にか二番手集団どころか三番手集団ぐらいまで落ちてしまった。冨山氏によればGAFAという破壊的イノベーターの登場に対応できないままマナズルズルと後退し、いまでもその状態から抜け出せないのだという。「創造的破壊なくして進歩はない」といったのは確かシュンペーターだったと思うが、バブル期までの成功体験にあぐらをかいたまま日本経済は、心を鬼にするような破壊を伴う創造作業からずっと距離を置いてきた。ピッチャーとバッターと走者の役割分担をきっちと決め、それぞれが役割を果たしていく。それはそれで一つにやり方だが、日本的経営はこの3者の連携を無視した。そればかりではない。変化する国際的潮流からも身を置いたまま、ガラパゴス的日本流にこだわってきた。大谷はそんな日本を脱藩した。役割分担を無視して1人で野球界を引っ掻き回している。大リーグはこれから本気で大谷の後追いを始めるような気がする。