[ニューヨーク 23日 ロイター BREAKINGVIEWS] – バイデン米大統領は戦略石油備蓄を活用し、中国やインド、日本、韓国、英国と協調してエネルギー価格高騰を和らげようとしている。備蓄放出は恐らく1億バレルに届かず、規模が小さいため効果も一時的にとどまるだろう。  1

しかし、今回の石油消費国の足並みをそろえたカルテル的な行動は、既に存在する産油国側のカルテルに直接対応した格好となっており、長期的に相当大きな影響を及ぼす可能性がある。

調査会社のライスタッド・エナジーによると、各国の合計備蓄放出量は7000万バレル強になる見通し。BPは今月、世界全体の1日当たりの石油需要は1億バレルを超えるとの見方を示した。つまり今回の放出規模は、1日分の需要にも満たない。

石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国でつくる「OPECプラス」は1日当たりの生産余力が約700万バレルなので、これらの産油国がその気になれば、2週間足らずで米国などの備蓄放出による供給分を打ち消すこともできる。

ただ、協調的な備蓄放出に加わった国の石油消費量は世界全体の約50%に達することが、米エネルギー省エネルギー情報局のデータから分かる。もちろん彼らが石油を使うのをやめることは不可能だし、国内の消費者に利用を抑えるよう強制もできない。

このため短期的に需要をコントローすることは難しい。他方、供給を制御するのも難しいことが判明している。OPECは加盟国に生産上限を設定しているとはいえ、そうした割り当て水準よりも生産量が多くなるケースは少なくない。

また、より長期的な話になれば、石油を巡る経済状況はより流動性が高まる。各国は電気自動車(EV)など代替分野の成長を促進することができる。さらにOPECの予想では、今後10年間で見込まれる世界のエネルギー需要増大の約4割は、中国とインドが占める。

一方、米国民がガソリンを大食いする自動車を好む傾向は当分変わりそうにない。米自動車誌カー・アンド・ドライバーによると、フォード・モーター、ダッジ、シボレーのピックアップトラックは、米国内でなお圧倒的な人気を誇っている。

それでも最大級の顧客を長期にわたって喪失することに耐えられるビジネスモデルなどほとんど存在せず、これはOPECにも該当する。中国とインド、米国はそれぞれ個別に、世界のエネルギー情勢を変えられるという面で、ある程度の力を持っているかもしれない。

代替技術の開発・採用に向けた共同研究や助成金供与を通じて石油需要を減らそうとするカルテルは、非常に強力な存在になってもおかしくない。また、そうした技術は世界中に普及していくだろう。

●背景となるニュース

*バイデン米大統領は23日、中国やインド、日本、韓国、英国と協調して石油備蓄を市場に放出すると表明した。

*米国は2通りの方法で5000万バレルを放出する。このうち今後数カ月で放出する3200万バレルは、将来的に市場に価格先安観が出てきた段階で返還を受ける。残る1800万バレルは以前に米議会が承認していた市場売却分で、売却を加速させる。

*ライスタッド・エナジーによると、各国から放出される石油在庫の合計は7000万バレルを超える可能性がある。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)