バイデン大統領が先週末の10日、「ロシアのウクライナ侵攻について事前に警告したにもかかわらず、ゼレンスキー大統領は聞く耳を持たなかった」と記者団に明らかにした。この記事を見た途端、「なんで今頃そんなこと言うの」と瞬間的に違和感を感じた。A F Pが報じたもので他メディアはあまり取り上げていないようだ。民主党がロサンゼルスで開いた資金集め集会で語った。記者のぶら下がりに答えた非公式な発言だろう。短い記事だが、同通信社は「多くの人が大げさだと考えたことは分かる」としつつ、「われわれには(侵攻の観測を)裏付けるデータがあった」と主張。「(ロシアのプーチン大統領が)国境を越えるつもりなのは疑う余地がなかったが、ゼレンスキー氏は他の人々と同様、耳を貸そうとしなかった」と詳細を語った。バイデン大統領はプーチンが侵攻する前から「確信」を持っていたのだ。

この発言を見てまず感じたのは、聞く耳を持たないゼレンスキー大統領のことより、「どうしてプーチンは止めなかったのか?」という単純な疑問だ。侵攻前からプーチンはロシアの安全を保障するよう米国とNATOに執拗に求めていた。細かい外交上のやりとりはまったく知らないが、当時、一連のニュースを見ながら「米ロ首脳会談はいずれ開かれるだろう」と個人的には感じていた。プーチンは確かバイデン大統領に文書を提出、拡大するN A T Oの抑制策とロシアの安全を保障する明確な対応策米国に要求していた。プーチンのこの問題に対する核心は、米国との1対1の対話だ。プーチンはトランプ氏よりもバイデン大統領の方が組みやすいと見ていた節がある。これに対してバイデン氏は文書で解答したものの、実質的なゼロ解答をさりげなく提出した。

事前のやりとりそれ自体が、侵攻実施に向けた単なる手続だった可能性もある。だが、侵攻の「核心」を握ったバイデン氏は、この時点ではプーチンの侵攻を阻止する行動は起こしていない。ゼレンスキー氏に“お知らせ”しただけである。遠くから静かにプーチンの侵攻を見守っていた。この行動は裏返せば、プーチンにウクライナ侵攻を仕向けているように見える。米国が介入しないことも明言している。これが「プーチンはバイデンに嵌められた」説の根拠でもある。米国を代表するニューヨーク・タイムズ(N Y T)は5月以降、ウクライナに停戦を勧める社説を書いている。社説は記者個人の意見ではない。社の公式な主張と位置付けられている。そしてN Y Tはどちらかといえば左派系の新聞で、米国のエリート層に強い影響力を持っている。バイデン氏の「聞く耳を持たない」発言を見て、米国の左派を中心に停戦に向けた世論作りが始まった、そんな気がした。民主党政権の手に負えなくなってきたのだろう・・・。