[香港 5日 ロイター] – ペロシ米下院議長の台湾訪問で米中の緊張が再び高まる中、ペロシ氏が2日の訪台に際し、南シナ海を避けた遠回りの飛行ルートを取り、米軍空母もわざわざ南シナ海を避けて航行するなど、中国との衝突を避けたい米軍の姿勢が浮き彫りになっている。 

米軍当局者は繰り返し「自由で開かれたインド太平洋」を支援するための「日常的な」パトロールについて語っている。だが、外交官や駐在武官、安全保障アナリストによれば、台湾を巡る情勢が1996年以来の緊迫度となる中、実態面での課題は多い。

米当局者は今週ロイターに対し、中国に批判的なペロシ議長の訪台前に、不必要に挑発的な配備で問題をエスカレートさせたくはないと語った。

また、中国軍が台湾の領海を含む周辺海域で実弾演習を開始する中、米軍はこのアプローチを維持。ある国防当局者は「ペロシ氏の移動はコントロールできないが、米国の反応はコントロールできる」と語った。

ペロシ氏と議会代表団を乗せた米軍機は2日にシンガポールから飛び立った後、南シナ海と海上の要塞化された島々を避け、インドネシアのボルネオ島とフィリピンの東側を通る長いルートを取った。

シンガポールが拠点の安全保障コンサルタントのアレクサンダー・ニール氏は、「通常の飛行ルートは南シナ海上空だが、中国が基地化した島に設置したレーダーやセンサー、妨害装置であふれているため、ペロシ氏としては避けるべきルートだった」と分析。制御不能な緊張の高まりを回避するのが目的だったことが分かると語った。

領有権が争われているパラセル(西沙)諸島とスプラトリー(南沙)諸島に施設を建設後、中国の沿岸警備隊の船舶や軍艦、航空機は日常的に同海域をパトロールし、頻繁に米国をはじめ他国の海軍動向を追跡している。

安全保障アナリストの中には、ここ数十年の中国軍の近代化により、米軍の空母が四半世紀前のように台湾近海で中国軍に挑むことはもはや考えられないとの意見もある。

当時は台湾初の総統直接選挙に対抗してミサイル発射と軍事演習を強行した中国を止めるのに、米空母が台湾海峡を航行するなどで十分だった。

独立系機関の米海軍協会によると、現在米海軍に配備されている111隻の戦艦の半数以上が、日本を拠点とし西太平洋からインド洋まで担当する第7艦隊の管轄下にある。

米海軍は原子力空母「ロナルド・レーガン」、ミサイル巡洋艦「アンティータム」、駆逐艦「ヒギンズ」、強襲揚陸艦「トリポリ」の4隻を台湾東方の海域に配備した。

F―35戦闘機を搭載した別の強襲揚陸艦が日本の近くの港に停泊している。また、攻撃型潜水艦もこれらの編隊近くにいる可能性が高いと専門家はみている。

ロナルド・レーガンを中心とする空母打撃群の動向は、ペロシ氏ら米議員代表団がアジアに来訪する数日前から注視されていた。

ラジオ・フリー・アジアは7月、ロナルド・レーガン空母打撃群が南シナ海南部のスプラトリー諸島にある中国の要塞付近をパトロールした後、月内にベトナム中部のダナン港に寄港する予定であると報じた。

しかしその後、打撃群がルートを変更し、7月22日から5日間、シンガポールに寄港することが判明。中国が7月16日から20日にかけて、パラセル諸島のさらに北にある基地の周辺10万平方キロメートルを範囲とする演習を開始したためとみられる。

米国とベトナムの両政府関係者ともに、このルート変更や理由についてコメントしていない。

米海軍の公式フェイスブックページによると、ロナルド・レーガン空母打撃群はその後、フィリピン群島の狭い海域を通り、台湾の西の海域に達した。

シンガポールの安全保障専門の研究者コリン・コー氏は、フィリピンと南シナ海の間を北上するのではなく、空母がフィリピンのサンベルナルディノ海峡を通過するのは異例だと指摘。「中国を不必要に刺激せずに必要な場所に移動できるよう、慎重に調整された配備だろう」と語った。

(Greg Torode記者、Idrees Ali記者)