ウクライナ戦争の勃発以来、個人的なことだが、世界中の指導者を「強い」か「弱い」かで色分けする癖がついてしまった。一口に強いとか弱いと言ってもさまざまな要素が入り混じっている。簡単には色分けできない。そこは素人の強み。直感的に強いか弱いかを判断している。例えば米大統領のバイデン氏は「弱い」部類の指導者、これに対してプーチンとか前大統領のトランプ氏は強い指導者と見做している。こうした判断の是非はとりあえず置くとして、同じような尺度で世界の政治情勢を分析する人がいた。オバマ大統領のもとで国防長官やC I A長官を務めたことがあるレオン・パネッタ氏だ。米国の国防政策の中枢を担ってきた人だ。17日付でNHKのサイトにインタビュー記事が掲載されている。インタビュアーはワシントン市局長の高木優氏。パネッタ氏はプーチンについて「弱いものをいじめる暴君」と断言している。

パネッタ氏によるとプーチンは、米国ならびにその同盟国は「弱い」と認識しているとのこと。トランプ時代のNATOと米国の亀裂、アフガン撤退をめぐるバイデン大統領の失態。誰が見ても米国は「弱い」、あるいは「弱くなっている」ように見える。プーチンも同じだ。だが彼が他の人と違っているのは、「弱体化」した米国をかぎとってウクライナ侵攻を決断したことだ。プーチンはそれまでクリミア半島への侵攻、シリア、リビアへの軍事介入、米大統領選挙への大胆なサイバー攻撃など世界中で様々な攻撃を仕掛けてきた。K G B長官だったという経歴もあり、世界に対するプーチンの認識はスパイそのもの。「アメリカ民主主義を傷つけるために生涯を捧げてきた」人物なのだ。そのうえ過去のいかなる強権の発動に対してもプーチンは、「(西側陣営に)これまで一度も代償を払っていない」稀有な人物なのだ。そのプーチンが「2日でキーウを陥落させる」という傲慢な目標の前で初めて挫折した。

米国の「弱さ」につけ込んだプーチンはウクライナならびにゼレンスキー大統領の意外な「強さ」に打ち砕かれたのである。戦争の行方はまだわからない。だがこれまでの戦況が示しているのは、「弱い」はずのウクライナが意外に「強く」、「強い」はずのロシアが想定外に「弱い」ということだ。アフガンでの失態を見るまでもなく「弱い」ことを自認しているのだろう。バイデン大統領は同盟国との協調に活路を見出した。そして「アメリカとNATO加盟国が長い歴史の中ではじめて結束した」のである。「弱い」もの同士が結束して「強い」同盟を作り出したのだ。トランプ氏が大統領だったらどうだったのだろうか。いずれにしても「弱い」ことは悪いことではないような気がする。「弱い」ことを補う結束力があれば「強い」状態が作り出せる。キーワードの「結束力」は外交力とか交渉力と言い換えてもいい。「弱い」日本にこれを補う力はあるか。敵基地攻撃能力だけではなんとも貧弱だ。