[26日 ロイター] – 米著名実業家、イーロン・マスク氏が、自身の創業した新興企業の女性幹部との間に双子をもうけていたことが分かり、従来のコーポレートガバナンス(企業統治)の枠を超えた問いが投げかけられている。

ロイターが9人の専門家に取材したところ、マスク氏らの行動が同社の行動規範に違反しているかどうかについて、解釈は大きく分かれた。

マスク氏は電気自動車(EV)大手・テスラおよび宇宙開発企業・スペースXの経営者として有名だが、人間の脳と機械を結ぶ半導体を開発する「ニューラリンク」の最高経営責任者(CEO)でもある。同社の従業員は約300人。

米経済ニュースサイト、ビジネス・インサイダーは今年7月6日、裁判所の機密文書を引用し、マスク氏(51)とニューラリンクの直属の部下の1人であるシボン・ジリスさん(36)との間に昨年11月、双子が誕生していたと報じた。

事情に詳しい関係筋5人によると、ジリスさんはその後、同僚らに対し、マスク氏と恋愛関係は持っておらず、双子は体外受精で妊娠したと説明した。ロイターは、ジリスさんの説明が正確かどうか確認できていない。

マスク氏の広報担当者らとジリスさんにコメントを要請したが、回答はなかった。

上司と部下が個人的関係を持つことは通常ひんしゅくを買い、著名なCEOが失脚した事例もある。専門家によると、こうした関係は大半の企業の規範に違反し、利益相反の懸念もあるからだ。

ロイターは62ページから成るニューラリンクの従業員ハンドブックを閲覧した。それによると、直属の上司・部下関係にある社員同士のデート、「個人的な関係」、「親密な個人的友人関係」は、利益相反を避けるために禁止されている。

しかし、マスク氏とジリスさんの関係はあまりにも異例であるため、ハンドブックの規範に違反しているかどうかについて、企業統治専門家の見方は大きく分かれた。

企業統治コンサルタント会社、バリューエッジ・アドバイザーズのネル・ミノウ副会長は「この文章を書いた弁護士はこうした状況を想定していなかったはずだ」と指摘。社員同士の関係に起因する利益相反を避けることが行動規範の意図だが、マスク氏らの状況はその「死角」にはまっているようだ語った。

ニューラリンクの行動規範では、利益相反を生じさせかねない関係について、人事部長への報告を義務付けている。利益相反を除外するための措置を採るべきかを社が判断できるようにするためだ。

マスク氏もしくはジリスさんが人事部長に関係を報告したか否かについて、ロイターは確認ができなかった。人事部長はコメント要請に答えなかった。

関係筋によると、ニューラリンクは恋愛関係ではなかったというジリスさんの説明を受け入れ、ジリスさんは特別プロジェクト幹部などの職務を継続している。別の関係筋2人によると、マスク氏とジリスさんは仕事で協力し続けている。

<解釈の余地>

ロイターが取材した企業統治専門家のうち4人は、ジリスさんが人工授精を通じてマスク氏との間に子どもをもうけたことは、ニューラリンクの行動規範が定める「個人的関係」もしくは「親密な友人関係」に当てはまるはずだと言う。

行動規範は個人的関係について、相手と結婚していない従業員同士が「恋愛もしくは親密な性質の関係を続ける」ことと定義している。「親密な友人関係」については定義していない。

ミシガン大学で企業法を担当するガブリエル・ローターバーグ教授は、マスク氏とジリスさんの関係について「職業上の関係の上に、親密な関係を重ねている」と指摘。「より大きな権力を持つ方が、その職業上の権力を不適切に行使する懸念は常にある」と述べた。

残り5人の専門家は、マスク氏とジリスさんの関係が社の行動規範に違反していない、もしくは確定的な結論は導き出せないと答えた。

ジョージア大学法科大学院のウシャ・ロドリゲス教授は、2人の関係は「共同親権的な関係が継続している場合には『親密な友人関係』に当てはまるかもしれないが、解釈次第だ」との見方を示した。

マスク氏が双子にどの程度関わっているかについて、ロイターは情報を得られなかった。ビジネス・インサイダーが報じた裁判所の文書によると、2人は双子がマスク姓を名乗るよう求めた。2人はまた、テキサス州の同じ住所を記入している。

テネシー大学法科大学院のジョーン・ヘミンウェイ教授は、2人が体外受精を行ったとしても、親密な関係にあると簡単に証明することはできないとし「新たなひねりが加わった」格好だと語った。

(Rachael Levy記者)