[ロンドン 5日 ロイター] – 英与党保守党は5日、ジョンソン首相の後任となる新党首にエリザベス・トラス外相を選出した。トラス氏が率いる新政権は物価高騰に伴う国民の生活費増大や労働紛争といった内政面の大きな課題を突き付けられる上に、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)後の諸問題やウクライナの戦争など外交上の懸案を抱えた船出になる。

主な課題は次の通り。

◎生活費増大

目下の英国で最大の課題は、40年ぶりの物価高とエネルギー価格高騰、長引く恐れがある景気後退(リセッション)に苦しむ国民にどう支援の手を差し伸べるかだろう。

昨年は各家庭で平均1277ポンドだったエネルギー支出は今年10月以降、一気に3549ポンドに跳ね上がり、来年はもっと高まる見通しだ。

トラス氏は先月、生活費が危機的に膨らんでいる国民を支援する手段としては、各種給付金よりも減税が好ましいとの見解を示した。ただ現時点では、より幅広い家計支援策を打ち出すとみられている。

またトラス氏は首相就任後すぐに、減税とともに緊急的なエネルギー危機対策予算を計上すると約束。これらの措置には、党首選を争ったリシ・スナク氏が財務相時代に導入した国民保険料引き上げの撤回も含まれるだろう。

もっともこれで助かるのは主に所得の高い層になりそうだ。

◎ストライキ

新政権は発足後ただちに、強硬姿勢の労組指導者への対応を迫られる。英国では鉄道労働者から法曹家、医療従事者、大学職員までさまざまな働き手がストライキを実行中か計画している状況にある。物価高を受け、賃上げ要求に力が入っているからだ。

トラス氏は、労組によるストを抑えるために「厳格かつ断固とした」行動を取ると明言している。 

◎ブレグジット

トラス氏は、ブレグジットの実務的な処理に取り組みつつ、前任のジョンソン氏が合意したEUとの離脱協定を修正するという約束を実行する必要がある。トラス氏は外相として、北アイルランド議定書の変更に向けた法案を推進してきた。これはジョンソン政権がEUと取り交わした離脱協定の一部、つまり英領北アイルランドとEU加盟国との開かれた国境を維持する目的で、北アイルランドを実質的にEUの関税圏にとどめるという内容を破棄する動きだ。

英国は長らく、この北アイルランド問題を巡るEUとの交渉で成果を得られない点に不満を持ち、議定書変更法案は英国の立場を守る予防的対応とみなしている。

しかしEU側は、新政権がこうした一方的行動を撤回しない限り、世界最大の研究開発助成プログラム「ホライズン」で英科学者に提供する枠を減らす対抗手段を行使するかもしれない。この対立は最終的に貿易戦争に発展しかねない雲行きと言える。

トラス氏は、まだ英国内で適用されているEUの法令を来年までに全て廃止する方針も表明している。

◎難民問題

英政府はこれまで、英仏海峡を小型船で渡航してくる亡命希望者をいかに減らすかに苦心を重ねてきた。

複数の政府関係者の話では、今年これらの人数は最大6万人と、過去最高だった昨年の2倍に達する恐れが出てきた。

そこで今年4月、政府は海を渡ってきた亡命希望者の一部をルワンダに移送し、同地で亡命手続きを行わせる計画を発表。その第1便出発は、欧州人権裁判所(ECHR)が直前に差し止めを命令した。

トラス氏は亡命希望者移送計画について、移送先となる国を拡大すると約束した。同氏はこの計画を断行する決意を示すとともに、ECHRが阻止し続けるならば英国はECHRを脱退するための法制化を進めるとしている。

◎ウクライナ

ロシアのプーチン大統領は、この冬に欧州が経済的痛みに耐えかね、ロシアのウクライナ侵攻に反対姿勢を後退させることを期待している。

英国はこれまでのところウクライナに対する最大の軍需物資支援国の1つで、約7000の対戦車兵器や数百のミサイル、戦闘装甲車を供給してきた。ウクライナ兵の軍事訓練も行っている。トラス氏はこうした英国のウクライナ向け軍事・経済支援を継続すると約束した。

問題は、ウクライナへの国際的な支援が弱くなる場合にどうなるかだ。

ただトラス氏は保守党党首選で、自身が首相になればウクライナにとって英国は「これ以上ないほど強力な同盟国」になると発言している。