[ロンドン 9日 ロイター] – 英国では70年に及ぶエリザベス女王の在位中、共和制移行を訴える人々から不満が噴出する場面が幾度かあった。しかし国民の女王に対する敬愛が強かったため、王室廃止の機運が長続きすることはなかった。

しかし女王が死去し、女王に比べて人気の劣る息子のチャールズ国王が即位したことで、共和制支持者らは1000年の歴史を持つ王室が廃止に一歩近づいたかもしれないと考えている。

共和制支持の活動団体「リパブリック」のグレアム・スミス代表は今年、「ほとんどの国民にとって女王こそが王室だ。彼女が死去した後、この制度の将来は深刻な危機に直面する」と語っていた。「チャールズ皇太子は王位を継承するかもしれないが、女王が享受していた敬意を引き継ぐことはないだろう」との見方だった。

近代民主主義の中に王室の居場所は存在せず、王室の維持費は目をむくほど高いというのが、スミス氏ら反王室論者の主張だ。

王室当局者らは、維持費は国民1人当たり年間1ポンド(約166円)にも満たないと言う。しかし共和制支持者らは、本当の経費は年間約3億5000万ポンドに達するとしている。

王室の全財産も把握するのが難しい。財務が不透明で、直接所有している資産もはっきりしないからだ。ロイターが2015年に行った分析では、当時の名目資産は推計230億ポンド相当だった。

世論調査では、英国民の大半が王室を支持していることが一貫して示されている。女王自身への支持率も同等か、それ以上だ。共和制支持者らも、女王の存命中に王室制度を変えるのは無理だと認めていた。

しかし調査では、支持率が徐々に低下しており、特に若者の間で下がっていることも分かっている。また女王に比べてチャールズ国王の人気が劣ることも示されている。

73歳のチャールズ国王が即位することへの支持も揺らいでおり、一部の調査では、多くの人々が長男のウィリアム皇太子が王位を継ぐべきだと考えていることが示された。

<皇太子の方が人気>

世論調査を見ると、チャールズ国王の2番目の妻であるカミラ王妃に対する国民感情も相変わらず二分している。国王夫妻を上回るウィリアム皇太子とキャサリン妃の人気が、国内外で王室廃止論に対抗する一助になるかもしれない。

英国の大衆紙はおおむね皇太子夫妻を好意的に受け止めており、王室行事や慈善事業に参加する様子をしばしば一面で特集する。皇太子夫妻は古い世代に比べ、メディアの利用にたけているとの指摘もある。

世界が目まぐるしく変化する中、王室のような古来の制度がもたらす安定は、人々のより所ともなってきた。

元王室側近は、とりわけ国難において、王室は「一種の重し」の役割を果たしてきたと指摘した。

しかし皇太子夫妻でさえ批判と無縁ではない。最近カリブ海諸国を歴訪した際には、大英帝国時代の王室の行為を巡る抗議に直面した。

<王室廃止の国民投票を>

活動団体リパブリックはここ数年間、ソーシャルメディアや看板を通じて活動を強化してきた。

スミス氏らは長年、国民が「チャールズ国王」という現実と向き合えば、王室全体への支持も薄まるだろうと訴えてきた。

スミス氏によると、女王の国葬が終わってチャールズ国王の戴冠式が行われるまでの間、同氏や他の活動家は王室制度の将来を巡る国民投票の必要性を熱心に訴えていく構えだ。

「これは活動の好機だが、活動が簡単に進むことはないだろう。われわれは国民投票の実現に向けて必死で取り組む必要がある」とスミス氏は語った。

英国には王室廃止の手続きについて成文化された憲法は存在せず、廃止への道筋は明らかではない。ただ、世論が圧倒的に王室廃止に傾けば、存続はできなくなると廃止論者は主張する。

過去に英王室が途絶えたのは、1649年の清教徒革命後だけだった。その後の短い共和制を経て、1660年には王政復古に至った。

<英連邦諸国の反乱>

王室の地位が脅かされかねないのは英国内だけではない。エリザベス女王の在位中に旧植民地諸国の大半が独立したとはいえ、チャールズ国王はなおもカナダ、オーストラリア、ニュージーランドを含む英国以外の14カ国の元首を兼ねることになる。

これらの国では女王への敬意と人気によって、共和制移行の議論がおおむね封じられてきたが、王位継承を機に議論が復活する可能性は高い。

カリブ海の島国バルバドスが昨年11月にエリザベス女王を君主とする立憲君主制を廃止したことは、共和制移行論に追い風を吹かせたとみられている。ジャマイカやベリーズなど他の君主制国家もバルバドスに追随する意向を示しており、英王室もそれを阻むつもりはないと表明している。

オーストラリアでは、1999年に実施した国民投票で有権者の55%が立憲君主制維持を支持した。しかし最近の世論調査では、互いに矛盾するさまざまな結果が示されている。

2020年の調査では、国民の62%がオーストラリア人が国家元首になることを望むと答え、鍵を握るのは将来のチャールズ国王即位だとしていた。しかし昨年1月の調査では、共和制移行を望む割合は34%にとどまっている。

オーストラリアのモリソン前首相は、2018年にチャールズ国王の次男ヘンリー王子とメーガン妃が来豪した際、「立憲君主制を大いに尊重しており、制度が壊れない限り修復する必要もないと考える」と述べた。

しかし、ヘンリー王子夫妻が2020年に王室を離脱し、その後、王室で人種差別的発言をされたと告発したことが、王室への逆風となる可能性もある。

中道左派のオーストラリア現政権は6月の組閣時、同国初の「共和国政務次官」を任命した。

アルバニージー首相はこれまで共和制移行を支持する発言をしてきた。しかし9日には「今日は1つの事柄だけを語る日だ。それはエリザベス女王への敬意表明だ」と述べるにとどめた。

カナダでは、最近の世論調査で国民の約半分が、エリザベス女王の死去をもって英王室との関係を終わらせるべきだとの考えを示した。

しかし専門家によると、カナダの憲法から君主制を除外するのは非常に困難とみられ、早期の共和制移行を阻む要因になるかもしれない。

ニュージーランドの世論調査では国論が二分しており、若い世代は共和制を支持する傾向にある。

アーダーン首相は2018年3月、自分の存命中にニュージーランドは共和制に移行するとの見通しを示しながらも、移行は政府の優先課題ではないと明言した。首相は女王が死去した8日、「本日、1つの章が閉じられたことは間違いない。(中略)彼女は卓越していた」と語った。

(Michael Holden記者)