モスクワ映画祭での受賞を辞退したブルガリア人のテオドル・ウシェフ監督=2018年6月、パリ(AFP時事)
モスクワ映画祭での受賞を辞退したブルガリア人のテオドル・ウシェフ監督=2018年6月、パリ(AFP時事)

 第45回モスクワ国際映画祭で、カナダ在住のブルガリア人映画監督テオドル・ウシェフ氏のSF作品が審査員特別賞に決まったものの、本人が受賞を辞退する騒動になった。ロシアのウクライナ侵攻の中、4月27日の閉幕式に際したビデオ演説で「子供、女性、高齢者を殺す命令が下される都市で受賞することはできない」とプーチン政権に抗議した。

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 作品は「φ(ファイ)1.618」。ブルガリアのメディアによると、ウシェフ氏は、人々に映画を通じて「今のロシアを投影する全体主義世界とディストピア(反理想郷)」について考えてほしいという思いから出品を決めた。最高賞を競うコンペティション部門に入った。

 本人はモスクワ入りしなかったが、映画祭での4月23日の記者会見にビデオメッセージを寄せた。この中で、プーチン大統領を念頭に「すべての独裁は悪名高い人物が歴史の永遠の石に自分の名前を刻みたいという熱望によって生み出される」と糾弾した。

 ロシアが外国で自国文化の排除に見舞われていると訴えていることに関し、ウシェフ氏は侵略国にこそ非があると指摘。「戦争がロシア文化を破壊している。ミサイルが本を燃やし、爆弾が詩や映画を消している」と痛烈に批判した。

 27日のビデオ演説では「誠に遺憾ながら(受賞を)断らざるを得ない」と表明。トロフィーは、映画祭責任者で政権寄りの巨匠ニキータ・ミハルコフ氏に預け「モスクワで自由に呼吸できるようになったら取りに来る」と語った。「私は平和が訪れ、善が悪に勝つことを信じている」「戦争ではなく映画を作ろう」とも強調した。

 閉幕式のホールには公式メディアの国営テレビなどしか入れず、その他の報道陣は原則排除。ウシェフ氏の反戦スピーチは本人のフェイスブックに掲載され、ロシアでは独立系メディアが伝えるにとどまっている。