▽時価総額885兆円失った中国株、習指導部にとって問題の深刻さ露呈<bloomberg日本語版>2024年1月25日 20:46 JST

  • 株安で中国経済が抱える問題を再認識-悲観論が台頭
  • 権力が集中する習氏の選択次第で、事態の好転可能との指摘も
Chinese President Xi Jinping on January 12, 2024 in Beijing , China, 12/01/2024 ( Photo by Didier Lebrun / Photonews via Getty Images)
Chinese President Xi Jinping on January 12, 2024 in Beijing , China, 12/01/2024 ( Photo by Didier Lebrun / Photonews via Getty Images) Photographer: Photonews/Getty Images

中国本土と香港の株式市場は前回のピーク時から計6兆ドル(約885兆円)相当の時価総額を失い、習近平指導部にとって痛みを伴う現実が浮き彫りとなっている。世界2位の規模を誇る中国経済の先行きに対する人々の見方は極めて厳しく、こうした悲観論はますます無視できなくなっている。

  中国本土株のCSI300指数は今月に入り大きく下落しており、過去3年間の下落率はほぼ40%に達する。こうした容赦のない下げで、個人投資家が中心の中国株式市場の苦痛は広がる一方だ。

  ブルームバーグ・ニュースが最初に報じた約2兆元(約41兆円)規模で検討されている市場安定化策や、中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁が24日に突如発表した預金準備率の引き下げは、何としても相場下落に歯止めをかけようとする当局の焦りを示している。

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  しかし、海外の投資家や個人投資家はいずれも、一連の措置が持続的な株価回復を促すのに十分なのか懐疑的なままだ。

  長引く不動産危機や人口動態上の問題に比べれば、株安はまだ表面的な問題に見えるかもしれない。家計資産に占める株式の割合は不動産と比較すればごくわずかであり、金融の安定を脅かすようなシステミックリスクの兆候も今のところ見られない。

  だが、金融関連のコメントや経済データに対する政府の統制が強化されつつある中国では、住宅価格の下落から貿易対立の激化に至るまで、実体経済が抱える問題を公に再認識させることができるのがマーケットだ。株安で個人消費や設備投資が伸び悩み、中国経済の問題がさらに悪化する恐れもある。

2015年とは異なる状況

  中国東部・江蘇省蘇州にある西交利物浦大学のフランク・ツァイ非常勤教授(国際学)は、「中国経済は順調に推移しているとの主張を繰り返しても、それを実現するためにできることは限られている」と分析する。

  「習氏は共産党の認識が中国や世界の投資家の見方と一致しているかどうかに関心を向けるべきだ」とツァイ氏は話す。

  中国当局が国内株式市場に対してこれほど強い懸念を示すのはほぼ10年ぶりだが、2015年とは経済状況が大きく異なる。

  当時、政府は中国経済のけん引役だった不動産に大規模な刺激策を講じる用意もあった。3兆元を超える人民銀の資金を使って、老朽化した集合住宅の取り壊しや新たな物件の建設や販売を進めた。また、当局は大幅に金利を引き下げ、個人消費と設備投資を後押しした。15年10月には一人っ子政策の撤廃が発表され、投資家の関心も再び高まった。公式データでは、15年の国内総生産(GDP)成長率は7%に達した。

Job Fair in Shanghai As China's Record-High Youth Unemployment Rate Likely to Worsen
上海市の就職フェア(2023年)Photographer: Qilai Shen/Bloomberg

  23年の中国経済は5.2%成長と、5%前後に設定されていた通年の成長率目標を達成した。だが、GDPデフレーターは3四半期連続のマイナスと、アジア通貨危機以降の最長を記録した。昨年12月の住宅価格は約9年ぶりの大幅下落。輸出が伸び悩んでいるほか、人口は減少し、職のない新卒者も多い。

  さらに重要な点は、当局が市場の支援に向けて介入する用意があるように見える一方で、債務増で調達した資金で不動産セクターや経済全般の成長を促す従来の刺激策からの方向転換を明確に示していることだ。

  政策措置は控えめで、国家安全が成長と並ぶ優先事項となり、党トップへの権力集中が進んでいる兆候が示される中、政府当局者が危機への迅速な対応に苦慮する可能性もある。

  レイリアント・グローバル・アドバイザーズの許仲翔最高投資責任者(CIO)は、非常に多くの融資が不動産に結び付いていたため、中国の政策転換は「市場からの信用撤退」につながったと指摘。つまり、現在の落ち込みは15年よりもはるかに大きいとの見方を示す。

  「これは全般にわたって富にマイナスの影響を及ぼす。信頼感が弱まり、より広範なベースで将来に対する悲観論につながる」と許氏は述べた。

  この数十年で最もセンチメントが低迷する中、中国経済が米国を追い抜けるのか、それとも1990年代の日本に根付いたような停滞に向かうのか、議論が激しくなっている。

  ギャブカル・ドラゴノミクスの中国調査担当副ディレクター、クリストファー・ベダー氏は「ここ1年の株式相場の下落は、明らかに中国経済に対する評価だ」と分析。「中国の株式市場は名目の経済成長が加速すると上昇する傾向にあるが、国内外の投資家は今のところそれが起こりそうにないと結論付けている」と語る。

  ダルトン・インベストメンツのベリタ・オン会長は、「新型コロナウイルス感染症対策のロックダウン(都市封鎖)の突然の終了など、習氏は迅速な行動が必要な状況下では、素早く行動できることを示してきた。彼がそうすることを選択すれば、事態を好転させることもできる」と話す。

  引くべきレバーが少なくなり、懐疑的な投資家層を納得させる必要があるため、中国当局にとって持続的な好転は難しい注文になるだろう。

  ナティクシスのアジア太平洋担当チーフエコノミスト、アリシア・ガルシア・エレロ氏は「15年よりも状況ははるかに厳しい」と指摘。「大きな刺激策を打ち出す必要はあるが、それを実現するための財政余地があるのか、あるいは十分な利下げができるのかも分からない」と述べた。

原題:China’s $6 Trillion Stock Wipeout Exposes Deeper Problems for Xi(抜粋)

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