▽ノボの肥満症治療薬、アジア初販売が日本である理由-病気の認識低く<bloomberg日本語版>2024年3月7日 5:30 JST

グラス美亜

  • 肥満に対する強い「スティグマ」、一方で男性の3割がBMI25以上
  • ダイエット目的の不適切使用を政府は懸念も

ノボ・ノルディスクが肥満症治療薬「ウゴービ」のアジアにおける販売を日本から始めた背景には、ダイエット大国であることに伴う人々の意識の問題がある。

  肥満が病気であるという認識が低く、偏見も強い。これこそがウゴービを日本で発売した理由のひとつだと、同社日本法人社長のキャスパー・ブッカ・マイルヴァン氏は、ブルームバーグのインタビューで説明した。日本では「街中で肥満の人をあまり見かけないことで、肥満に対するスティグマ(恥辱)がより強くなっている」とも指摘する。

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キャスパー・ブッカ・マイルヴァン氏Photographer: Jyunpei Ono

  日本ではダイエットへの関心も高い。肥満は意志の弱さの問題と片付けられ、治療という選択肢に気づいていない人も少なくない。だからこそ「肥満に対する公衆の知見を深めていかなければならない」とマイルヴァン氏は話す。

  日本は肥満の問題を抱えてないように見えるが、実は2020年の調査によると、男性の肥満割合は増えており、20代では過去30年間で倍増しているという。厚生労働省の最新データによると、日本では男性の約33%、女性の約22%がBMI25以上となっている。アメリカでは、男女ともに約43%がBMI30以上だ。

  世界的には体格指数(BMI)が30以上を肥満と定義しているが、日本人は30未満でも肥満に関連した健康障害を起こしやすいため、日本肥満学会では25という低い基準値を用いている。

  神戸大学大学院医学研究科の教授で、日本肥満学会理事の小川渉氏はBMIが25以上を肥満と考えた場合、日本人成人男性の30%以上が当てはまるとして、定義は異なるが日本の肥満率は「アメリカやヨーロッパとそこまで変わり」はないと話す。

Weight Loss Drugs As US Prescriptions Skyrocket
肥満症治療薬「ウゴービ」Photographer: George Frey/Bloomberg

世界市場は800億ドルの予想

  肥満症治療薬の市場は拡大している。ブルームバーグ・インテリジェンスによると、ノボとその最大のライバルであるイーライリリーが牽引し、2030年までに肥満治療薬の世界売上高が800億ドルに達する可能性があると予測している。

  市場の期待も大きい。肥満症治療薬と糖尿病治療薬の「オゼンピック」を手がけるノボの株価は過去1年で約7割あがった。

  日本で保険適用となる肥満症の新薬が発売されたのは約30年ぶりのことだ。厚生労働省によると、5年後のピーク時の売上予測は、日本で約330億円(2億1900万ドル)となっている。

  医療費を含む社会保障費の増大への懸念が高まる一方で、同社はむしろ肥満の問題に先んじて手を打つことが重要だという考え方を示す。マイルヴァン氏は「日本では、国民皆保険制度を守ることに強い関心があるが、そのためには慢性疾患への対策が必要だ」と述べる。

  世界肥満連合によると、肥満による日本の経済的コストは60年までに19年の4倍近い約1980億ドルに増加すると予測されており、政府は肥満問題の抑制に強い関心を持っている。

  他方で、ダイエット目的の不適切な使用を懸念する声も日本政府からは上がる。マイルヴァン氏は「同様に我々も懸念しており、不適切な使用を防ぐために政府や医学会と対話してきた」と強調した。

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