先週、主要メディアが一斉に、政府の成長戦略における総投資額が2040年までの累計で370兆円にのぼると報じました。この成長戦略は2027年度から始動するため、単純平均すると年間の投資額は28.5兆円規模となります。果たしてこの規模は、日本経済の再生にとって十分なのか、あるいはまだ不足しているのか。本稿では、この数字の規模感をどう捉えるべきか考察します。

この370兆円という数字は、政府(官邸筋)からのリークと見られます。これをベースに、今週から経済財政諮問会議や日本成長戦略会議で本格的な議論が始まる予定です。最終的には、7月の第1週頃に取りまとめられる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に反映される見込みです。

個人的な実感としては、「これでもまだ少ない」と感じています。では、どの程度の規模が適正なのでしょうか。本来であればメディアには、日本経済再生に必要な長期的な成長投資額を検証し、規模感をめぐる建設的な議論を期待したいところですが、現状ではそれは望み薄です。

そこで、高市早苗首相のブレーンである会田卓司氏の分析を紐解いてみます。同氏は「失われた30年」の最大の要因を、需給ギャップが平均してほぼゼロだったことだと指摘します。需給ギャップとは「実質GDP」と「潜在GDP」の差を指し、プラスなら景気が良く、マイナスなら景気が悪い状態を意味します。「ゼロ」は「良くも悪くもない状態」ですが、この均衡状態が長引くと経済成長は停滞します。

かつての経済運営は、大幅なマイナス需給ギャップを埋めるために財政出動を行い、ギャップがプラスに戻るとすぐに財政・金融を引き締めるというサイクルの繰り返しでした。これが、閉塞感に覆われたデフレ経済の正体です。これに対し、「責任ある積極財政」を掲げる高市政権は、需給ギャップをプラス2%とする「高圧経済(需要が供給を上回る状態)」の実現を宣言しました。その手段こそが、安全保障および成長への集中投資というわけです。

会田氏は、「需給ギャップが2%を超える高圧経済が実現すれば、企業の投資意欲が高まり、労働市場が引き締まって賃金が上昇する。その波及効果は地方や中小企業にも広がり、企業貯蓄率はマイナスへ転じ、物価上昇率は2%程度で安定する」と強調します。要するに、これこそがデフレからの完全脱却の道筋です。そのために必要なのが、GDP比で「ネットの資金需要」をマイナス5%程度に維持することだと同氏は分析しています。

現状のネット資金需要は、ひとことで言えば「プラスマイナスゼロ」です。政府の大幅なマイナスを、企業と家計の大幅なプラスが相殺し合っており、経済が膠着しています。これをマイナス5%の水準にするためには、企業の投資拡大が絶対条件です。企業の内部留保はすでに600兆円を超えており、環境は整っています。

にもかかわらず、企業が内部留保を積み上げてきたのは、先行きの不透明感と投資リスクを回避する「守りの経営」に徹してきたからです。そこを「官民一体の投資推進」で補うのが、いわゆる「サナエノミクス」の要諦といえます。

問題は投資額の規模です。会田理論に従えば、GDPの5%程度の投資が必要です。仮にGDPを600兆円とすれば、年間投資額は30兆円となります。13年間継続すれば累積投資額は390兆円となり、政府案の370兆円にかなり近づきます。景気は心理的な側面も大きいため、思い切ってキリの良い「400兆円」に設定してはいかがでしょうか。年間30.8兆円という投資規模であれば、十分に達成可能だと思われます。

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