「責任ある積極財政」を掲げる陣営がリードする形で進む「骨太の方針2026」の採択。これに対し、財政健全派は先週の10年物国債利回りの急騰を好機と捉え、いわゆる「骨太ショック」を誇大に報じることで積極財政派の封じ込めに動いた。この間の経緯を振り返る。
高市政権が「骨太の方針2026(原案)」を発表したのは6月30日であった。7月に入ってからは特に大きな反対論もないまま数日が経過したが、翌週の6日、7日と10年物国債利回りが上昇。これを受けて健全派の動きが急激に活発化した。表立って政府を批判しにくい財務省に代わり、主要メディアが長期金利の上昇を「骨太ショック」と大々的に取り上げた。同利回りが2.85%に達した8日には、1996年10月以来、約30年ぶりの高水準であると大きく報じられた。
さらに9日には2.900%を記録し、外国為替市場では対ドルで162円台の円安・ドル高が進行した。メディアや財務省の意図を汲むかのように市場では国債売りが加速した。これに押される形で、政府は「日銀の独立性を侵害するものではない」との立場を示し、原案の修正に応じる構えを見せた。ただし、修正といっても本文の注釈に「日銀の独立性」という一文を追加する程度にとどまっており、積極財政の基本方針そのものは維持されている。
長期金利の上昇を捉え、積極財政批判を展開したのはメディアだけではない。市場への影響力を持つ野村総合研究所の主任エコノミスト・木内登英氏もコラムにて、「骨太ショックによる長期金利上昇は財政政策への市場の警鐘であり、国内経済や世界の金融市場に悪影響を及ぼす」と批判した。積極財政による国債増発を懸念する市場が、高市政権に警鐘を鳴らしているというお決まりの論調である。
木内氏は「財政悪化による信認低下は債券安(金利上昇)をもたらし、通貨の信認低下を通じて円安を引き起こす。また、円安による物価高も債券安につながる」と説く。なぜこれほどまでに、すべての事象をネガティブな方向へと解釈したがるのだろうか。
専門家に異を唱えるつもりはないが、いま世界中で金利は上昇している。異次元緩和の時代、日本の長期金利は世界の動きから乖離し、ゼロパーセント付近に張り付くという「ガラパゴス化」状態にあった。それがようやく世界経済の潮流と連動して変動するようになったに過ぎない。異次元緩和という異常な金利環境から脱却し始めた現実を、批判派はまったく理解していないようである。
それだけではない。「責任ある積極財政」は、失われた30年に及ぶ主流派の「失政」を教訓としている。この間の最大の失策は、過剰ともいえる「投資不足」だ。財政健全化を旗印に、将来世代が恩恵を受けるはずの収益基盤の強化を目指す先行投資まで抑制してしまった。
財政法第4条は国債発行を原則禁止しているが、但し書きには「公共事業、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で公債を発行し又は借入金をなすことができる」と規定されている。戦後80年を経て時代にそぐわない点も多いが、この但し書きは、収益性のある事業については当初から国債発行を認めており、これが建設国債の根拠になっている。
公共事業は孫の代まで便益を提供し得るものであるが、健全財政の名のもとに極端に抑制されてきた。その結果が、八潮市で発生した下水道破裂による道路陥没のようなインフラの劣化ではないだろうか。
収益事業は公共事業だけではない。AI、半導体、造船、防衛関連など多岐にわたる。にもかかわらず、財政健全化派の主張は長期金利上昇を捉えた「骨太ショック」による財政不安に終始している。裏で糸を引く財務省、その意向に沿うだけのエコノミストや主要メディア。彼らは孫子の代に対する責任をどう考えているのか。機会があれば、ぜひ問い質してみたい。