首相官邸に入り記者団に囲まれる加藤勝信厚生労働相(中央)=2018年2月21日午後2時28分、川田雅浩撮影

 安倍晋三首相は21日、加藤勝信厚生労働相を首相官邸に呼び、働き方改革関連法案について協議した。裁量労働制の労働時間に関する首相の答弁に野党が猛反発していることを踏まえ、加藤氏は、裁量労働制の対象拡大を2019年4月から20年4月に1年延期する案を報告。首相は容認したうえで「しっかり自民党内の理解を得るように」と指示した。しかし、野党は施行時期の見直しに納得せず、国会で引き続き追及する構えだ。

 働き方改革関連法案はまだ国会に提出されていない。加藤氏は会談後、「延期と誤解しているが、もともと施行時期をどうするかという議論はある。法案提出時期が変わっている」と記者団に語った。施行の延期は、昨年秋の臨時国会を想定していた法案の提出が遅れたためであり、国会で野党に押し込まれたからではないという理屈だ。

 ただ、裁量労働制と一般労働者の労働時間を不適切に比較した首相らの国会答弁が厳しい批判にさらされる中での延期案は、厚労省が困惑している証拠にほかならない。与党に根回しがなかったことに、自民党国対幹部は「どうして延期するのか、意味が分からない」と不快感を示した。閣僚経験者も「世論が納得する説明がなければ持たない」と指摘。与党の「理解」を得ない限り、政府は身動きがとれない状況だ。

 公明党の山口那津男代表は21日、加藤氏の前に首相と会談し、「法案提出に当たっては、与党の厳密な審査を経てしっかり対応できるように整えるべきだ」と注文を付けた。首相は「それは当然だ」と応じたという。

 自民党の岸田文雄政調会長は21日の記者会見で「基準の異なる資料を並べて提出したのは極めて不適切だが、そのことをもって法案すべてを否定するのは論理の飛躍ではないか」と野党に反撃を試みた。しかし、施行時期の延期案は「小手先のテクニックだ」(民進党の平野博文国対委員長)と野党をかえって勢いづかせている。

 立憲民主党、希望の党、民進党、共産党、自由党、社民党の幹事長・書記局長は21日、国会内で会談し、働き方改革関連法案の今国会提出見送りと、裁量労働制に関する労働時間の再調査を与党に求める方針を決めた。立憲民主党の辻元清美国対委員長は、22日の衆院予算委員会を前に「厚労省も安倍首相も明日はもう一度顔を洗って出てきてほしい」と語った。

 厚労省は21日の衆院予算委理事会で、山越敬一労働基準局長がデータに問題があると2日に把握したのに、加藤氏に7日まで報告せず、同氏が5日の予算委で不適切なデータに基づいて答弁した経緯を文書で説明した。

 ところが、局長が「調査方法や定義が不明確」と判断しながら、「一般労働者と裁量労働制で異なる仕方で選んだ数値の比較になっているとの認識は必ずしもなかった」というあいまいな書き方だったため理事会は紛糾。野党は「結果として加藤氏が虚偽答弁をした責任は重い」と批判している。【高橋克哉、樋口淳也】