サイト訪問者を項目ごとに分析し、ポイントをつける
今やウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、あなたがどういう記事を読みたがり、さらには潜在的に何を買いたがるかまで、あなた以上によく知っていると考えているのかもしれない。
過去数年、WSJはメディア界におけるペイウォール(注・支払いの壁=ウェブサイトのコンテンツを一部有料化し、対価を支払う利用者だけがアクセスできるようにすること)の先駆けとして、デジタル版WSJ.comを購読契約していない人にどこまで記事の試し読みを許すか、試行錯誤してきた。
WSJ.comを訪れる非契約の読者は今、それぞれが「傾向スコア」をつけられる。初めてWSJのサイトを見ているのか、基本ソフトウエア(OS)は何を使っているか、どのような端末を使って読んでいるか、どの記事をクリックしたか、そしてどこからアクセスしているか(そして、その場所から推論できる様々な人口統計学的な情報)。こうした60以上の項目に基づいて算出されるものだ。機械学習を使って柔軟なペイウォールを作り上げていくことで、読者にどのような分野の記事を何本まで無料で読ませるべきか、ペイウォールに突き当たった読者がお金を払ってもアクセスしようとするのか、そのままサイトから立ち去ってしまうのか、といった複雑な推測をしなくても済むようになったという。
「8か月ほど前を振り返ると、我々は多くの異なるデータを示すグラフをただ眺めていた。今は、ある人の傾向スコアを見れば、その人が購読契約してくれる見込みがどれくらいあるか、ほぼ的中させられるだけのモデルケースを取得することができた」と、WSJのカール・ウェルズ会員管理部長は話す。ウェルズ氏は「分かったことは、デジタル購読契約の見込みが少ない人に対してペイウォールを緩める(WSJのモデルでは、2~3週間の期間限定でペイウォールを開けておく)なら――我々はこれを『サンプリング』と言っているが――、契約してくれる確率が一気に高まるということだ」とも述べている。
「ゲストパス」でデータ集積
ある水準以上の傾向スコアがついて、購読契約の見込みが高いとされた人にはペイウォールは厳しいものになる。逆にスコアの低い人は、一度のサイト閲覧で何本も無料で記事を見た後で初めてペイウォールに突き当たる。自分のメールアドレス情報(これもWSJにとっては分析の対象となる)を提供すれば、代わりに「ゲストパス」をもらって閲覧を続けられる。ゲストパスは、傾向スコアの分析の結果、もう少しコンテンツをちらつかせれば購読契約に傾きそうな人にも与えられる。
デジタル購読の費用は年間222ドル(学生には割引があり49ドル)で、傾向スコアによって変わることはない。
ゲストパス以外にも、WSJ.comは非定期購読者が記事を試読できる方法を実験してきた。2016年8月には、WSJの記者が同紙の記事につながるリンクをソーシャルメディアでシェアすれば、その記事のロックが外れて一般の人も読めるようにするという企画を始めた。
ウェルズ氏らは、こうした試みがどのくらい契約に結びついたかという実数やゲストパスの発行数を明らかにしないが、最新のデジタル契約者数は138万9000人で、1年前の108万人から増加している。
傾向モデルは、アプリ開発の世界では無料ユーザーを有料ユーザーに転換する目的で広く使われてきた技術で、これを購読契約増加につなげようとしたのはWSJが初めてではない。フィナンシャル・タイムズも何年にもわたって読者データを使い、狙いを付けた読者がより効果的に反応するようなサービス提供を試みてきた。
もはや「壁」ではない
「壁」という比喩は、以前ならメディア各社のペイウォール戦略を説明するのに妥当だった。ペイウォールは、意図的に「漏れ」や「穴」がある状態にしておくことができた。自然災害やテロ攻撃などの非常時にそうするように、壁の扉(ゲート)を全面開放することもできた。強固な壁には隙間はないかもしれないが、のぞき見はできる。ただ、こうした比喩は、もはやWSJに関しては当てはまらない。
読者がお金を払ってでも読む傾向が強い特定のタイプの記事はあるのか、またWSJ.comに、これといった「穴」はあるのか、ウェルズ氏に尋ねてみた。答えはこうだ。
「我々のモデルはそうした見方を逆転させるものだ。記事ではなく読者の側から見る。あなたが今どのコンテンツを見ているのかは、ペイウォールのアウトプット(出力結果)であって、インプット(ペイウォールへの入力データ)ではないのだ」(2月22日配信記事から抜粋。全文は こちら )