イギリス南部で、何者かがロシアの元スパイの男性とその娘を有毒な神経剤で暗殺しようとした疑いが持たれている事件について、メイ首相は、ロシアに責任がある疑いが極めて高いとして、ロシア側に説明を求めました。この事件は今月4日、イギリス南部の都市ソールズベリーでロシアの元スパイのセルゲイ・スクリパル氏とその娘がショッピングセンターのベンチで意識を失って倒れているのが見つかったもので、警察は何者かが有毒な神経剤を使って2人を暗殺しようとしたとみて捜査しています。

この事件についてメイ首相は12日、議会で報告し、「使われた神経剤はロシアで開発されたノビチョクと呼ばれる軍用のものだ」と明らかにしました。そして、ロシアが直接、事件に関与したか、あるいは神経剤の管理に不備があった可能性を指摘し、「ロシアに責任がある疑いが極めて強い」と述べました。

さらにメイ首相は、イギリスに駐在するロシア大使に13日までに説明するよう求めたことを明らかにし、「納得できる説明がなければ、イギリスに対するロシアの違法な行為に等しいと考えることになる」と警告しました。イギリスでは、2006年にロシアの治安機関の元職員が放射性物質ポロニウムで殺害される事件が起き、今回の事件をきっかけに市民の間に不安が広がっていることから、メイ首相としては強い姿勢を強調する狙いもあるものと見られます。

プーチン「まずは英側で事実解明急ぐべき」

これに先立ってロシアのプーチン大統領は「まずはイギリス側が何が起きたのかを解明すべきで、議論するのはそのあとだ」と述べ、イギリスは、ロシアの関与の有無を議論する前に事実の解明を急ぐべきだという考えを示しました。さらに、メイ首相の議会での報告が終わったあと、ロシア外務省のザハロワ報道官は「議会におけるサーカスのショーのようだ。挑発的な政治キャンペーンであることは明らかだ」と述べ、ロシアの関与を改めて否定しました。

米 攻撃を非難 ロシアの責任は明言せず

一方、アメリカ、ホワイトハウスのサンダース報道官は12日の記者会見で、「攻撃は無謀かつ見境がなく、無責任なものだ」と述べ、非難しました。イギリスのメイ首相がロシアに責任がある疑いが極めて高いと述べていることについて、サンダース報道官は「われわれは同盟国イギリスとともにある」と述べるにとどまり、ロシアに責任があるかどうかについては明言しませんでした。

「ノビチョク」の毒性はVXの5~8倍

イギリスのメイ首相が言及した神経剤「ノビチョク」は、ロシア語で「新たに来た人」や「新入生」を意味します。イギリスのメディアによりますと、「ノビチョク」は旧ソビエトで1970年代から1980年代にかけて製造され、化学兵器として配備されたということです。毒性の強さは、去年、北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長の兄、キム・ジョンナム(金正男)氏の殺害に使われたことで知られるVXの5倍から8倍ということです。またロシアのメディアは、1990年代に起きたロシアの銀行家の殺害事件で、この「ノビチョク」が使用されたとも伝えています。