ある人物と特定の日に会ったのか。たったそれだけのことを確認するのに1年近い月日が費やされた。
学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題をめぐり、柳瀬唯夫元首相秘書官(現・経済産業審議官)が国会に参考人として招致された。
柳瀬氏は秘書官当時の2015年4月2日、加計学園関係者らと首相官邸で面会したと明らかにした。これまで「記憶の限りでは」と否定していた愛媛県今治市など自治体関係者の同席も「いたかもしれない」と事実上認め、説明を一転させた。
今治市職員による官邸訪問を記した同市の行政文書が表面化したのは昨年6月だ。翌7月、柳瀬氏は面会相手ではないかと野党から追及され、否定している。結局、面会に同行して内容を記した愛媛県職員の文書が見つかり、追い込まれた。
驚いたのは、加計関係者との面会をこれまで明かさなかった理由についての柳瀬氏の言いぶりである。これまでの国会での質問は、愛媛県や今治市職員との面会についてのものだったためだと説明した。「加計との面会については聞かれなかったから言わなかっただけ」とでも言いたいらしい。
15年4月は今治市が国家戦略特区を申請する2カ月前にあたる。柳瀬氏は加計関係者との官邸での面会は3度だったと明らかにした。
加計学園理事長は安倍晋三首相の友人だ。柳瀬氏は13年5月、首相の別荘で知り合ったという。首相と理事長の関係を踏まえ、柳瀬氏が面会に応じたとみるのが自然だろう。
ところが柳瀬氏は「加計」に限らず業者とは積極的に会っていたと強調し、面会について首相にいっさい報告もしなかったという。にわかに信じがたい説明である。
愛媛県の文書は、柳瀬氏が獣医学部新設について「首相案件」と言ったと記している。柳瀬氏はこの発言については否定したが、つじつまの合わない説明は、むしろ「首相案件」でなかったかとの心証を強める。
首相は加計学園の獣医学部計画について「昨年1月に初めて知った」と答弁し、関与を否定している。
柳瀬氏の招致を経ても、疑問は解消されないままだ。与野党は愛媛県など自治体や、学園の関係者の国会への招致を急ぐべきだ。