朝からずっと米朝首脳会談の生中継を見ていた。歴史的な会談をテレビ桟敷で観戦する。会談場所はシンガポールのセントーサ島にある高級ホテル「カペラ・ホテル」。歴史に残る会談が行われたホテルとして恐らく後世に記憶されていくだろう。会談が成功すればこのホテルの名声も上がる。世界中の人々と同様にこのホテルの関係者も首脳会談の成功を祈っていることだろう。トランプ米大大統領と金正恩労働党委員長の初対面は意外にあっさりしていた。握手の時間は12秒ほど。どちらかというとトランプ大統領に余裕が感じられた。これに対して、あの金正恩委員長はさすがに緊張の色を隠せない。2500万人にのぼる北朝鮮人民の生殺与奪の権を一手に握る独裁者も、米国大統領の前では緊張するのだと思った。

トランプはさすがに腹が座っている。自分の年齢の半分にも届かない若き指導者を導くように、会談する部屋に同委員長を誘導していた。わずかに伝わる生の声でトランプ氏は「会談はうまくいく」と予言し、金委員長は「ここまで長い道のりだった」と過去を振り返る。緊張感は依然として溶けていないように見えた。初対面の前後、10時02分にロイターは「トランプ米大統領は、カドロー米国家経済会議(NEC)委員長が心臓発作を起こし、病院で治療を受けているとツイッターに投稿した。北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長との歴史的会談の直前にツイートした」と報じた。なんという大統領だ。専用車での移動の最中に投稿したのだろう。我々の見えないところで凄まじい情報がやり取りされている。大統領は情報戦争の渦中で自ら情報を発信しているのだ。

首脳会談の結果はまだわからない。いずれ発表されるだろうが、個人的には両大統領の「大成功発言」意外に実りのある中身はないだろうとみる。ひょっとして誰も予想していなかった“意外”な展開になるかもしれない。それを期待しながら、発表を待つしかない。ただ、テレビ中継を見ながら思ったのは、今回の会談が異例の会談だという印象だ。トランプ大統領自身が歴代大統領とは異質な大統領である。加えて金正恩委員長は、どう見ても異様だ。いずれも“自己中の極み”のように見える。その2人が本当に歴史に残る平和への道筋を付けられるとすれば、関係者が長年にわたって苦労した過去は何だったのだろうか、ということにならないか。そんなことはどうでもいい。とにかく異質と異様がかみ合った異例の会談で、非核化への道筋をつけてもらいたい。