【ワシントン=塩原永久】トランプ米政権は、ハイテク技術の覇権を狙う中国の産業育成策「中国製造2025」に対抗し、中国への制裁関税を強化する方針だ。強硬策は、米技術の流出防止が目的だが、民間の技術力を底上げし、先進的な軍事技術の獲得につなげようとする中国への警戒感も一因となった。米国では「中国の軍事と民間は一体だ」との不信感があり、ハイテク分野の米中攻防は長期化する見通しだ。

米政権が10日、関税を適用する中国製品を2千億ドル(約22兆円)相当とする追加制裁を表明したのは、中国製造2025を実現するため、中国が米国の知的財産を侵害しているとみているためだ。

中国は次世代技術の本命とされるAI(人工知能)などの分野で世界屈指の競争力を握る目標を掲げる。ハイテク分野に国家主導型で乗り出す中国に対し、米政権は「経済的侵略だ」(ナバロ大統領補佐官)と敵対姿勢を隠さない。

強硬策に振れる米国の対中政策は、軍事・安全保障面での中国脅威論も背景にある。米国からの部品輸出が禁止された中国通信機器大手、中興通訊(ZTE)をめぐっては、「ZTEの通信機器を通じて米国の秘密が中国当局に漏れる」(米議員)などと、米国内の不信が表面化した。

米通商代表部(USTR)がまとめた中国による知財侵害の報告書は、先進技術の開発力を底上げするため、産業界と軍事部門が一体的に取り組むよう求めた中国の政府方針「軍民融合」に注目している。軍民融合は2014年、「国家戦略」に格上げされ、17年には専門の監督組織が新設されたという。

軍事と民間を両輪として産業振興を進める戦略は、民生品を軍事用にも転用する「デュアルユース」と呼ばれる技術動向も後押ししている。かつて軍事から民間に広がった技術として、インターネットや衛星利用測位システム(GPS)が知られている。だが近年は、半導体レーザーやセンサーなど、優れた民生品を軍事用に改善して利用するケースが増えた。

USTRの報告書によると、中国の地方政府が支援する買収ファンドなどが、デュアルユースの技術取得を視野に、企業買収を展開したことが確認された。

“軍産一体”となってハイテク振興策を進める中国への懸念から、米政府は、輸出品を制限する輸出管理制度を強化する検討に入った。トランプ米大統領は6月下旬、「米安全保障と技術面のリーダーシップを守るため」として、商務省に検討作業を指示。米メディアによると、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)も作業に参画する。

トランプ氏は、中国との通商問題で、巨額の貿易赤字削減や米国内への雇用回帰を訴えている。ただ、自前で先端技術の開発力を確立する野心をあらわにする中国への警戒は根深く、米中のハイテク覇権をめぐる対立は沈静化する兆しがみえない。