米紙ワシントン・ポスト電子版は28日、関係者の話として、日本と北朝鮮の情報当局高官が7月にベトナムで極秘接触していたと報じた。日本からは北村滋内閣情報官、北朝鮮からは南北関係を担当する統一戦線部のキム・ソンヘ統一戦線策略室長が出席したという。
同氏によれば、接触は米国には事前に伝えられておらず、米政府当局者らは日本に対し不満を高めているという。
一方、中国に派遣されている北朝鮮の幹部はデイリーNKジャパンに対し、金正恩党委員長が今年5月中旬、「日本との関係回復のための首脳会談を準備せよ」と指示したのを受け、中央党(朝鮮労働党中央委員会)の組織指導部が密かに日本との首脳会談の準備を進めていると明かした。
この幹部によれば、5月末には組織指導部のメンバーを中心に、国家保衛省(秘密警察)と外務省の専門家らからなる「朝日(日朝)首脳会談準備委員会」が立ち上げられた。国家保衛省は、日本人拉致被害者についての詳細な調査を担い、外務省は、日本に関する情報の分析と、日本政府関係者との秘密接触を担う。
また国家保衛省の情報筋によれば、「金正恩氏は2018年を誇り高く締めくくるために朝日首脳会談を今年11月末頃に計画している」という。
少なくとも7月までの時期的な流れとしては、この幹部の情報とワシントン・ポストの記事の内容は符合する。また、北朝鮮メディアの報道を遡ると、4月27日に南北首脳会談が行われて以降、日本人拉致問題への言及が増えているようにも見える。
それでは今後、金正恩氏と安倍晋三首相の首脳会談が開催され、一気呵成に日朝関係が改善することもあり得るのだろうか? 筆者は、北朝鮮が11月の日朝首脳会談を目指すのは、あり得ることだと考える。しかし、その後の本格的な関係改善は難しいと言わざるを得ない。
筆者は7月5日の本欄でも、北朝鮮はこの夏から11月頃にかけて、日本への働きかけを強める可能性があると書いた。
国連総会と国連人権理事会では10年以上にわたり、北朝鮮の凄惨な人権侵害に対する非難決議が採択されているが、その決議案の共同提出者は欧州連合(EU)と日本だ。国連総会での採択は毎年12月だが、今年はその時期が巡ってくる前に、北朝鮮は日本に対し「日朝首脳会談を開きたければ止めておけ」と圧力をかけてくる可能性が高いと考えたのだ。
金正恩氏は、諸外国から人権問題で追及されるのを何よりも嫌っている。核兵器は、どのような形で非核化するにせよ、その気になれば新たに作る余地は残る。しかし、人権問題はそうはいかない。国民の人権に配慮して恐怖政治を止めてしまったら、金正恩氏は権力を維持できないからだ。
国連での動きを止めるためには、人権問題に敏感なEUを攻めるより、日本の安倍をどうにかする方が簡単だ——金正恩氏がこのように考えたとしても不思議ではない。
このように北朝鮮側にも「動機」があるので、首脳会談の開催だけなら不可能ではないだろう。しかし北朝鮮メディアの論調はと言えば、「拉致問題は解決済みであり、日朝対話を行うなら焦点は過去の植民地支配に対する賠償だ。それに乗る気がないなら、安倍は朝鮮半島問題に首を突っ込むな」というものだ。
果たして安倍氏は、これに乗ることができるのか。出来ることなら拉致被害者を取り戻したいとは考えているだろうが、その歴史観からして、安倍氏が日朝間の過去の清算に取り組みたがっているようには思えない。
日朝対話は今後、水面下でいいところまで行くかもしれないが、「最後の詰め」で暗礁に乗り上げてしまう可能性の方が高いようにも思える。