ロシアのプーチン大統領が10日夜、極東ウラジオストクで開催中の東方経済フォーラムで行った「思いつき」発言が日本国内で政治イッシューとなっている。同大統領の発言は「事前条件を付けずに年末にまでに平和条約を結びましょう」というもの。この発言が飛び出した時に壇上には安倍首相のほか中国の習近平国家主席など各国首脳が同席していた。プーチン氏は「いま思いついたばかり」と前置きしてこの発言をしているが、これを思いつきだと思うジャーナリストは世界中に一人もいないだろう。日経新聞は「司会者の進行を含めて事前に準備していた可能性が高い」と断定している。ではなぜ、この時期に、この場所でプーチン大統領はあえてこんな問題発言を行ったのだろうか。国内でも様々な思惑を呼ぶことになる。
管官房長官はプーチン発言を受けて即座に「領土問題の解決が前提という日本の立場は変わらない」とコメントした。当然だろう。ここで官房長官が大統領発言に同意していたら、官房長官は即刻辞任を余儀なくされた。それ以上に安倍政権が持たなくなり日本中が大混乱に陥っていたはずだ。同席していた安倍首相が何を考えていたかわからない。いまも沈黙したままである。これを受けて野党は一斉に反発する。国民民主党の玉木雄一郎代表は「提案された時に反論も何もせず、薄ら笑いを浮かべていた総理のあり方は外交上の大きな失態だ」(東洋経済オンライン)、共産党志位和夫委員長は「外交的大失態であり、屈辱外交であり、国辱外交と言っても言い過ぎではない」(同)と厳しく批判した。立憲民主党の長妻代表代行は「集中審議を開くべき」との考えを示した。いつものことだが、単純すぎるのが野党の欠点だ。
日経新聞は背後に国際的な政治環境の変化があると指摘する。「今回の提案は激変する世界情勢をにらむプーチン氏にとって日本の価値が低下していることを映し出している」と読む。ウクライナに侵攻しクリミア半島を併合したロシアに対して西側諸国は経済制裁という強攻策で対抗、ロシアの孤立化を図ろうとした。しかし、トランプ大統領が米国第一主義を掲げて登場したあたありからロシアの孤立化戦略にほころび始める。これに北朝鮮問題や米中の貿易戦争が加わって包囲網は機能停止状態に陥った。そしてロシアは中国と密接な関係を築き、米国に対する対決姿勢を強めようとしている。こうなるとロシアにとって日本の価値は、日経新聞が指摘するように限りなく減少する。だから習近平氏の前で、トランプ氏に配慮しながら「思いつき」と称して対日外交戦略の大転換を示唆したのである。プーチン大統領の「思いつき」発言を誘発したのはトランプ大統領である。そこをまず分析すべきだ。