G20を機に行われた米中首脳会談の中身が少しずつ明らかになってきた。米国は中国製品にかける関税の猶予期間を90日間に設定した。問題はいつから猶予期間が始まるかだが、クドロー米国家経済会議(NEC)委員長は当初25%への引き上げを予定していた来年1月1日から3月末までの90日間と説明した。その後、ホワイトハウスがこれを修正して12月1日から2月末までに変更した。ちょっとした変更といえばそれまでだが、この間に行われる貿易交渉は米中の将来を占う非常に厳しい交渉になると予想されている。その期間が1カ月短縮されたわけで、ただでさえ厳しい交渉に時間という要素も加わる。個人的には25%への関税引き上げは避けられないのではないかという気がする。

時事通信によるとトランプ大統領は首脳会談の直後に「中国が米国からの輸入自動車に課している関税の引き下げ・撤廃に応じた」とツイッターに書き込んだ。毎度のことだがトランプ大統領による勝利宣言である。その後明らかになった情報を加味すると、この会談で中国は米国に大きく譲歩したことは間違いない。例えばムニューシン米財務長官は3日、米CNBCテレビのインタビューで、「中国が1兆2000億ドル(約136兆円)超の輸入を追加する意向を示した」と語っている。金額の多寡だけではない。クドロー委員長は米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表が今後の交渉の責任者を務めることを明らかにした。これまで穏健派のムニューシン財務長官主導だった交渉が強硬派主導に代わる。

猶予期間というのは、税率の引き上げを予定していた1月1日を起点にするのが筋のような気がする。それを1カ月前倒した理由について日経新聞は、「3月上旬の中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)開幕直前に期限を設定し、習近平国家主席ら中国指導部に譲歩を迫る思惑もあるとみられる」と書いている。そうだとすれば米国の意図はみえみえだ。だが、相手の弱みが絶対に譲れない一線に変わる可能性はないのだろうか。習主席が全人代前に米国に大きく譲歩すれば弱腰批判が巻き起こり、国内の権力基盤が弱体化する危険性もある。それを避けるために習主席が一歩たりとも譲歩しない強硬姿勢に転じれば、米中激突の貿易戦争勃発ということにもなりかねない。弱みを突くは強硬派の戦術が裏目にでる可能性もないとは言えない。そうなった時、世界経済はどうなるのだろう…。