Hyonhee Shin
[ソウル 5日 ロイター] – 長年にわたり対立してきた南北間の連絡はこの10年間、実質的に途絶えていたが、韓国政府はこの夏、北朝鮮側の開城(ケソン)市に連絡事務所を設置する準備を進めていた。
このとき、韓国政府当局者の間では、米国政府の同意を得るべきかどうか、白熱した議論があった。
当時の状況を知る関係者2人がロイターに語ったところでは、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の側近数人は、これは南北朝鮮だけの問題であり、同盟国である米国を巻き込む必要はない、と強調したという。
だが、このときの会合に出席した複数の当局者にとって意外だったのは、趙明均(チョ・ミョンギュン)統一担当相が、この韓国政府の計画は、核開発プログラムを巡り北朝鮮に科されている制裁措置に違反する可能性があるため、米国政府に相談しなければならないと主張したことだった。
英国、ドイツ、スウェーデンなど20数カ国は、北朝鮮の首都・平壌にすでに大使館を開設している。他の当局者は、これに比べれば、提案されている連絡事務所は北朝鮮の接点としてはるかに低いレベルのものだと考えていた。
そしてもちろん彼らは、趙統一担当相が制裁の厳格な実施を主張する先頭に立つとは予想していなかった。趙氏は文大統領からの指名で統一担当相となり、その主要任務は、和解と協力を育み、最終的には北との統一へとつなげることである。
趙氏の30年に及ぶ官僚としてのキャリアは南北統一と不可欠に結びついており、2008年には北朝鮮政府に対する姿勢があまりに融和的であるとして統一省から外されたことさえある。
趙氏やベテラン外交官らの提言を受けて、韓国政府は最終的に米国からの同意を求めたうえで、9月に連絡事務所の開設にこぎつけた、と情報提供者の1人は言う。
情報提供者はいずれも、配慮を要する問題であることを理由に匿名を条件として取材に応じた。
趙氏はコメントしなかったが、統一省のある高官によれば、同省は趙氏に対する批判は認識している、という。
「南北関係はユニークだが、これまでも困難は伴っていた。北朝鮮側の不誠実さもある。われわれが直面しているジレンマというか、これがわれわれの運命なのだ」とこの高官は、やはり問題の難しさを理由に匿名で語った。
<交渉の障害>
文政権の中で論争があったことはこれまで報道されていなかったが、このことは、米国政府を味方にしつつ北朝鮮との関係を進展させる方法について、韓国内部で対立が広がっていることを示している。
状況に詳しい複数の当局者によれば、韓国政府の中には「北朝鮮が核開発プログラムを放棄するまでは、米国主導の制裁・圧力という作戦から逸脱していると見られるわけにはいかない」という声もあれば、南北間の絆を強化していくことで、停滞した外交プロセスを促進する効果があると感じる向きもあるという。
「韓国政府内の亀裂のせいで、米国との十分な協議を経ることなく北朝鮮との接近を急ぎすぎるようなことがあれば、核協議だけでなく、韓米同盟や南北関係にとっても妨げとなる可能性がある」と、峨山政策研究院の申範澈(シン・ボンチュル)上席研究員は指摘する。
今年前半、南北間の緊張緩和に続いて、北朝鮮指導者の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とトランプ米大統領が和解に向けた協議を行った後、トランプ氏は文大統領に対し米朝の間で「交渉責任者」を務めるよう求めた。
だが、核協議の停滞を巡って米朝両政府が互いを非難する中、その役割はますます困難になりつつある。
米国の当局者は、北朝鮮が非核化を完了するまでは厳しい制裁を続けなければならないと主張する。一方、北朝鮮側は、すでに主要施設を解体するという妥協を示しているのだから、米国は制裁緩和と朝鮮戦争(1950─53年)の終結を宣言するという形で応じるべきだと主張する。
新米国安全保障研究所(CNAS)のアジア専門家で、米韓双方の当局者に強い人脈を持つパトリック・クローニン氏は、「他の側近と異なり、趙統一担当相は、南北和平を願う自身の強い思いと、強固な韓米関係を維持することの重要性への理解との間でバランスを取っている」と語る。
「韓米同盟におけるある程度の意見の不一致は不可避であり、心配する必要はない。憂慮すべきは、北朝鮮に対応するうえで米韓のアプローチが明らかに分裂する場合だ」
韓国大統領府はコメントを拒否しているが、文大統領は3日、記者団に対し、韓国と米国の間に意見の不一致があるという見方には「根拠がない」と述べ、北朝鮮の非核化に対する米韓両国の立場に違いがないことを理由に挙げた。
<募るいら立ち>
韓国大統領府の考え方をよく知る第3の情報提供者によれば、趙統一担当相があまりにも米国の思惑を気にすることへの懸念から、大統領府、あるいは統一省内部でさえ、趙氏へのいら立ちが強まっているという。
「統一担当相としての趙氏に大統領が期待しているのは、大統領が重視するイニシアチブが実現するような大胆なアイデアを思いつくことだ」とこの情報提供者は言う。
この夏に3回行われた南北首脳会談の中で、文大統領と金正恩氏は、両国をつなぐ鉄道・道路の再開、条件が整った時点での開城工業団地の操業再開、長年中断している北朝鮮のリゾート地、金剛山へのツアー再開に合意した。
これらの計画はいずれも大きな進捗(しんちょく)を見せていない。制裁によって直接的に禁止されているか、開城工業団地の場合のように、こうした南北合同プロジェクトが制裁の効果を損なうことを危ぶむ米当局者を韓国政府が説得するのに時間がかかっているためだ。
また北朝鮮自体も、行動が読みにくいパートナーだ。統一省の当局者によれば、開城の連絡事務所を通じた協議もたまにしか行われていない。北朝鮮政府側の交渉担当者が毎週予定されている協議に無断欠席することが多いからだ。
それでも、開城での連絡事務所開設は米国政府との対立を招いた。
韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相は8月、議会答弁の中で、米当局者が韓国政府に対し、開城の連絡事務所に関する韓国側の説明は「十分ではない」と伝えてきたと述べた。
ソウルにいるある外交関係者によれば、現在は閉鎖されている開城工業団地でかつて工場を経営していた企業関係者グループが連絡事務所の開所式に招待されたことは、米国政府にとって予想外だったという。
韓米両国は先月、対北朝鮮政策を調整するため、核交渉の代表団を中心としたワーキンググループを立ち上げた。上記の外交関係者によれば、このグループ立ち上げは「南北朝鮮の関係をけん制したい」という米国の要望から生まれたという。 12月5日、韓国政府内では、北朝鮮への対応を巡り「亀裂」が生じている。
開城の連絡事務所に関する質問に対して、米国務省のある当局者は「すべての加盟国が、国連安保理決議に基づく部門ごとの禁止物品を含め、国連による制裁を完全に実施することを期待している。また、(北朝鮮による)違法な核兵器・ミサイル開発プログラムを終結させるべく、すべての国が真剣に責任を果たすことを期待している」と述べている。
また、別の国務省当局者によれば、米国は、トランプ・金両氏による首脳会談において、4月の南北首脳会談での合意に対して承認を表明したという。「南北関係の進展は、非核化の進捗と足並みをそろえて行われなければならない」というのがその理由だ。
ポンペオ米国務長官は先月、ワシントンで趙統一担当相に会い、南北間の協力と核交渉の進捗は「引き続き足並みをそろえるべきである」とはっきりと警告した。
<板挟み>
厳しい姿勢を維持するよう米国政府からのプレッシャーを受ける一方で、趙統一担当相は、南北の和解に消極的であるという批判も受けている。
北朝鮮は5月、米韓空軍による合同軍事演習に抗議し、趙統一担当相を中心とする韓国側との会談を中止した。最終的に会談は実施されたが、北朝鮮側の李善権(リー・ソングォン)祖国平和統一委員会(CPRK)委員長は、会談の中止を招くような「重大な状況」をもたらしたとして趙氏をあからさまに非難した。
開城連絡事務所の開所式では、工場オーナーたちが趙氏に対して工業団地の操業再開を強く求め、2016年の閉鎖以来、休止状態にある設備・施設を点検するため現地を訪れたいという要望を統一省が繰り返し却下してきたことに落胆していると訴えた。
開城工業団地内に工場を持つ企業関係者グループをまとめるシン・ハンヨン氏は、「開城訪問は制裁とは何ら関係ないと認めているにもかかわらず、われわれの要請に対して趙統一担当相があまりにも無関心だったことについて不満を表明した」と話す。
趙統一担当相は先日、国会答弁の中で、こうした対応の遅れについて、北朝鮮とのスケジュール調整に問題があったからだと説明。さらに統一省としては国際社会に対し「全般的な状況を説明するための時間が必要だった」と述べた。
峨山政策研究院の申研究員は、制裁の効果を損なうような動きがあれば、韓国企業が罰則を適用されるリスクが生じることになる、と警告する。
韓国規制当局の文書によれば、9月の南北首脳会談後、米財務省高官が韓国銀行7行のコンプライアンス担当者を呼び出し、北朝鮮との金融協力の再開は「米国の政策と整合せず」、各行は国連・米国による金融制裁を遵守しなければならないと警告したという。
統一省次官を昨年まで務めた金炯錫(キム・ヒュンソク)氏は、「最優先事項が北朝鮮の非核化であり、これに関して最大の影響力を持っているのが米国である以上、現実的には、米国の立場を考慮する以外の選択肢はない」と指摘。
「核問題に関して進捗がなければ、南北関係を維持するにあたって、どこかで限界が来る。趙統一担当相もそれは分かっている」と同氏は語った。
(翻訳:エァクレーレン)