韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領の年頭記者会見が10日に行われた。2時間を大幅に超える会見の中で険悪化する日韓関係について触れたのはたった4分程度。テレビの情報番組やネットで見る限り同大統領は日本人記者の質問に不快感を感じている様子が画面を通じて伝わってくる。日本人記者が指名されたのはNHK記者一人だけだが、それも「あなたを指名したつもりではなかった」と会見の中で嫌味を言っている。前代未聞の不謹慎発言である。日本で言えば首相の記者会見に相当する。米国ならもちろんトランプ大統領の記者会見と同列だ。会見を通して一貫しているのは韓国大統領と大統領府詰め記者の終始和やかな会見風景である。トランプ大統領と記者の罵り合うような風景はない。だが、会見が穏やかであればあるほど韓国大統領の“特異性”が際立つような会見だった。

慰安婦問題、竹島問題、海上自衛隊の旭日旗掲揚問題、徴用工問題、韓国駆逐艦による火器管制レーダーの照射問題など、日韓の間に横たわっている懸案は数え上げたらキリがない。にもかかわらず、年頭会見ではこうした問題にほとんど触れなかった。徴用工問題でも「日本はもっと謙虚であるべきだ」と日本をたしなめている。日本は韓国に日韓条約に基づく「協議」を申し入れているが、これを受けるか受けないかの見通しすら触れない。会見に同席した日本人記者がどんなに手をあげても指名すらされない。たった一人指名された記者は「あなたを指名するつもりではなかった」と嫌味を言われる。おそらく日本中で文大統領を「嫌い」になる人が増えるだろう。日本人の多くは判官贔屓なのだ。

日本人が文大統領を嫌いになる以上に、同大統領は日本が嫌いなのだろう。それはそれで構わないが、国と国とが公式の外交の場で取り決めたことを勝手に無視する態度は、一国の元首としていかがなものだろうか。菅官房長官は「韓国政府は自らの責任を日本に転嫁している」と大統領を批判している。個人的にもそう思う。北朝鮮出身の文在寅大統領が意図的に日本を無視する作戦をとっているとしても、国と国の過去の話し合い(外交)を無視することはできないはずだ。それでもあえて無視するのだとすれば、日本は簡単に矛を治めないほうがいい。この際徹底的に韓国の非を世界にアピールすべきだ。文大統領が日本は無視すればするほど、対抗措置を講ずる安倍政権の支持率は上がるだろう。これが政治のパラドックスだ。