アメリカ国防総省は、新たなミサイル防衛戦略を発表し、宇宙配備型のセンサーの開発を進める方針を打ち出しました。中国やロシアによるミサイル技術の急速な進展が背景にあり、宇宙も舞台にした大国間の軍事競争が本格化しています。

アメリカ国防総省は17日、9年ぶりとなる新たなミサイル防衛戦略を発表しました。

トランプ大統領は、国防総省で演説し「目標はアメリカに向けたあらゆるミサイルを探知、撃墜することだ」と述べて、国土の防衛を強化する姿勢を強調しました。

新たな戦略では、中国やロシアが、既存のミサイル防衛システムでは防ぎきれない可能性が高い「極超音速兵器」と呼ばれる新たな兵器などミサイル技術を急速に進展させていると指摘しています。

そのうえで、これらの脅威に対処するため、宇宙配備型の高性能センサーやミサイルの発射直後にレーザーで破壊するシステムの開発を進める方針を打ち出しています。

また、北朝鮮については、アメリカ本土を攻撃できる弾道ミサイルの獲得に近づき「極めて重大な脅威だ」として、これに対処するため地上配備型の迎撃ミサイルを増強するほか、ハワイと太平洋地域に最新鋭のレーダー2基を配備するとしています。

トランプ大統領は今回、演説で北朝鮮と中国、ロシアには直接、言及しませんでしたが、政権としては、中国とロシアの軍事力の強化に危機感を強めていて、宇宙も舞台にした大国間の軍事競争が本格化しています。

新戦略のねらい

トランプ政権が9年ぶりにミサイル防衛戦略を見直した背景には、中国とロシアに対する強い危機感があります。

アメリカは中国とロシアが複数の弾頭で攻撃する新型の弾道ミサイルや低空で目標に到達する巡航ミサイル、それに「極超音速兵器」と呼ばれる新たな兵器の技術を急速に進展させているとみています。

中でも、「極超音速兵器」は、音速の何倍もの速さで飛行しながら軌道を変えられるため、既存のミサイル防衛システムでは防ぎきれない可能性が高いとしています。

このため、アメリカ国防総省では、これまでの戦略で中心に据えていた弾道ミサイルへの対処能力だけでは限界があるとして、新たな戦略でより包括的なミサイル防衛システムを構築する必要があるという認識を示しています。

そのうえで、地上配備型のレーダー網の強化に加え、新たに宇宙からミサイルを探知、追尾できる高性能センサーやミサイルの発射直後にレーザーで破壊するシステムの開発に取り組む方針を示しています。

トランプ政権の高官は「次世代のミサイル防衛のカギは宇宙だ」と話して、今後、宇宙でのミサイル防衛能力の強化を急ぐ必要があると話しています。

極超音速兵器とは

「極超音速兵器」は、中国とロシアがアメリカのミサイル防衛システムを突破できる攻撃能力を目指して開発を進めているとされる新型のミサイルシステムです。

アメリカのミサイル防衛システムは、放射線状の軌道を描きながら落下する弾道ミサイルの特性を利用して軌道を予測し、迎撃する仕組みになっています。

これに対し、「極超音速兵器」は音速の何倍もの速さで飛行しながら軌道を変えられる能力を備えているため、既存の仕組みでは防ぎきれない可能性が高いとみられています。

この兵器について、ロシアのプーチン大統領は先月、開発段階を終えて、実戦配備する方針を明らかにしました。

新たな兵器は「アバンガルド」と呼ばれ、核弾頭を搭載可能で、音速の20倍の速さでレーダー網をよけながら目標を攻撃する能力を持つとしていて、実験では、約6000キロ先の目標地点に正確に着弾させたとしています。

また、中国も去年8月に極超音速兵器の発射実験に成功したとしています。

これらの兵器について、アメリカ国防総省ミサイル防衛局のグリーブス局長は去年、議会の公聴会で「弾道ミサイルとは違い、軌道の変更が可能で予測不能であり、極めて大きな脅威だ」と指摘し、ミサイル防衛システムの大幅な見直しと強化の必要性を強調していました。