老後資金2000万円問題で世間が大騒ぎしている。参院選を7月に控えていることもあるのだろう。政府に与野党とメディア、それに一部の有権者が入り乱れて老後生活の不安を煽り立てている。なんともおぞましい世相だ。担当大臣の麻生副総理を筆頭にあれやこれやと批判する野党、受けて立つ与党。これ見よがしに煽り立てるマスコミ。ごく一部の少数の人々が、日本中が大騒ぎしているかのようにがなり立てている。浅はかの極みだ。問題となっている報告書は、金融審議会の下部組織であるワーキング・グループ(WG)がまとめた問題提起に過ぎない。それをダメだと野党は噛みつき、メディアは政治家や官僚を煽る。挙げ句の果てに担当である麻生副総理は「正式な報告書として受け取らない」と眉間にシワを寄せる。世も末だ。

WGの報告書は激しく変化する時代環境の中で、金融サービスはどうあるべきか検討したものにすぎない。個人は「人生100年時代に資産形成や管理に取り組んでいくこと」、金融サービス提供者は社会の変化に対応して「それに沿った金融商品・金融サービスを提供すること」が求められる。そのために何が必要か、報告書の趣旨は単なる論点整理にすぎない。現状把握や今後の論点を探る中に、「収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で1300万円、30年で2000万円の取り崩しが必要になる」との単純な試算がある。メディアはこの部分を取り上げ「人生10年時代、2000万円不足、金融庁が報告書」(日経新聞)と大見出しを立てた。言ってみれば報告書のつまみ食い。それに麻生副総理と野党、メディアが過剰に反応しているのである。

急激に変化する時代である。何をどう変えるのか、みんなで議論するしかない。金融審議会のWGは、金融分野を対象に問題提起をした。そしたら野党はけしからんと批判し、担当大臣は「将来の不安を煽っている」と報告書にケチをつける始末。議論も何もあったものではない。沈思黙考どころか軽挙妄動の誹りを免れない。野党は「100年安心」とうたった年金改革が嘘だった声を荒げている。メディアは重箱の隅を掘りかえして針小棒大に取り上げている。なんと言えばいいのだろうか。全てが噛み合っていないのだ。強引にたとえてみれば教育改革のテーマで与野党とメディアが、小学校の算数の時間に「どうして英語を教えないのだ」と文句を言っているようなものだ。全く歯車が噛み合っていない。見ている方が消耗する。消耗大国・日本、国民の不安はいやが上にも増すことになる。