【ソウル=桜井紀雄】米国との非核化交渉が停滞する中、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、最大の「後ろ盾」である中国の習近平国家主席を自国に招くという今取り得る最大限の“外交カード”を繰り出した。ロシアのプーチン大統領との4月の会談に続いて中国からの支持を取り付け、トランプ米政権を牽制(けんせい)する狙いだが、思惑はそれだけではないようだ。
習氏は昨年9月の北朝鮮の建国70周年に合わせた平壌訪問が取り沙汰されるなど、訪朝の観測は浮かんでは消えた。物別れに終わった米朝首脳再会談前の今年1月の北京訪問を含め、金氏が4回にわたって一方的に訪中を重ねるといういびつな外交になっていた。
北朝鮮は、核実験場の廃棄といった措置を既に実行しており、米側が相応の措置を取るのが先決だと再三主張。習政権は従来、「行動には行動で応えるべきだ」との北朝鮮の言い分に理解を示しており、金氏は習氏との会談で改めて支持を確認し、自らの主張を正当化する狙いだ。
非核化交渉は米側の再考を「年末まで待つ」方針を示しているが、切羽詰まっているのが経済問題だ。制裁で経済が逼迫(ひっぱく)している上、昨年と今年の干魃(かんばつ)で食糧難にも直面している。
貿易の9割を占める中国が表面上は国際社会の制裁と足並みをそろえ、中朝間の物流が滞っていることが経済を圧迫している状況は、北朝鮮住民なら誰もが実感していることだ。
米朝会談の物別れで国内に失望感が広がっているといわれる中、中国からの支持取り付けは急務だ。習氏訪朝は目に見える形で最も効果的にそれを誇示でき、住民に経済面での希望を抱かせて、最高指導者の権威付けにもつながる。習氏が食糧援助など実際の支援策を表明する可能性もある。