• 政府の政策効果もあり景気後退リスク少ないーブルームバーグ増島氏
  • 消費者マインドは緩やかに低下、耐久消費財の買い替えには慎重姿勢

10月予定の10%への消費税率引き上げが日本経済に及ぼす影響は5年前の増税時ほど深刻にはならない、との見方がエコノミストの間で広がっている。これまでのところ増税前の駆け込み需要が小規模にとどまっているからだ

2014年4月の5%から8%への増税前には、多くの人が自動車や家電などを前倒しで買うことで消費が急増し、増税後の大きな反動減を招いて景気後退へとつながった。今回は増税幅が2%と小さいことや政府のさまざまな消費平準化対策の効果もあり、前回ほどの需要の伸びは見られない。

その傾向が顕著なのが自動車だ。日本自動車販売協会連合会によると、6月の新車販売台数は前年同月比で0.9%減少した。前回増税の4カ月前の13年12月には18.7%増加していた。

自動車の駆け込み需要は限定的

ブルームバーグの増島雄樹シニアエコノミストは、前回に比べて駆け込み需要は「政府の政策の影響もあって、抑制されているようだ」とし、今回の増税が景気後退につながる可能性は少ないとの見方を示す。

政府は今回、自動車や住宅ローンの減税、食料品などに適用される軽減税率に加え、キャッシュレス決済でのポイント還元といった諸政策で、増税の影響を抑制し景気を支える。不動産経済研究所によると、首都圏の5月のマンション契約戸数は前年比13.6%減と4カ月連続のマイナス。松田忠司主任研究員は、政府の政策効果もあり、今回はほとんど駆け込み需要が見られないと指摘する。

野村証券の桑原真樹シニアエコノミストも、増税の影響は「今回そこまで大きくない」と指摘。前回との一番大きな違いとして、増税前の消費に「そもそも盛り上がりがない」点を挙げ、「もともと低成長なのでそれほど落ちる余地もない」とみる。

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストはリポートで、駆け込み需要の対象範囲は名目国内総生産(GDP)ベースで50.9兆円程度に及ぶと試算。その約半分が住宅と自動車で、残りは家電、家具といった耐久消費財や化粧品などの消費財としている。熊野氏は政府の政策により今回の駆け込み買いは「前回に比べて相当小さくなる」と予想する。

世界経済が減速し、各国間で貿易摩擦がくすぶる中、国内消費は日本経済の先行きの鍵を握る。安倍晋三首相は参院選に向けた党首討論会で「予見できる、例えば今後10年間ぐらいの間は上げる必要はない」と述べ、10%を超える消費増税は想定していないとの見通しを示した。

もっとも、駆け込み需要の全体像を把握するには時期尚早だ。前回の増税時、経済産業省の商業動態統計でテレビや冷蔵庫といった家電を含む機械器具小売業で駆け込み需要が見られたのは実施の直前だった。

増税の影響が消費統計に完全に反映されるのに時間がかかる一方、内閣府の消費動向調査の消費者マインドは前回同様低下してきている。前回と異なるのは、今回はそもそも急上昇せずに比較的緩やかに落ち込んでいる点だ。耐久消費財の買い時判断に関しては、6月時点で前回増税時の14年4月以来の水準まで低下している。

IHSマークイットの田口はるみ主席エコノミストは、消費者が「かなり慎重になってきている」と指摘する。駆け込み需要も反動減も深くはならないとした上で、増税後に景気が弱まると消費者の不安はさらに高まり、「回復が遅くなる可能性がある」と懸念を示す。