[ワシントン 19日 ロイター] – 今週物議を醸した米民主党の移民系女性議員に対するトランプ大統領の「国に帰れば」発言が、来年の大統領選に向けた民主党候補指名争いで失速気味にあるジョー・バイデン前副大統領に巻き返しのチャンスを与える可能性がある。
トランプ大統領は14日、「スクワッド」と呼ばれるアレクサンドリア・オカシオコルテス、イルハン・オマル、アヤナ・プレスリー、ラシダ・トレイブの4人の議員を標的に「完全に破滅して犯罪がまん延する元にいた国に帰り、建て直しを手伝ったらどうか」と発言した。
「人種差別的な発言」として波紋が広がる中、トランプ大統領はこれを逆手に取り、急進的なスクワッドが「民主党の新たな顔」とのレッテルを張り、大統領選を視野に民主党を攻撃する戦略に出た。
これに対し、バイデン氏は自身の「中道派」を堅持し、オカシオコルテス議員のほか、民主党候補の指名争いでしのぎを削る急進左派的なバーニー・サンダース上院議員らと差を鮮明にすることで、穏健派や中道派の支持基盤を確実にすることを狙う。
バイデン氏は今週、トランプ大統領の発言を人種差別的で「米国の魂をえぐり出すようなものだ」と批判。同時に、急進的な4議員が民主党の主流を成しているわけではないと語り、政策面で下院の結束を維持しようと腐心しているペロシ下院議長に支持を表明した。
さらに、民主党が下院の過半数議席を奪還した昨年の中間選挙では、勝利した民主党議員の大半が自身と同じ中道派で、オカシオコルテス議員らのように民主社会主義者を自称する議員はさほど多くなかったと強調した。
実際、バイデン氏の支持者の間では、民主党がトランプ大統領に勝利するために過度に左派に傾きつつあるとの懸念が根強い。
バイデン氏はまた、オバマケアに基づく医療保険制度の強化を提唱。民間保険を廃止し、国民皆保険制度「メディケア・フォー・オール」を推すサンダース議員との差別化を図ると同時に、「新しい何かを始めるのではなく」、「旧守」の姿勢を貫く考えだ。
シンクタンクのサード・ウェイのエグゼクティブバイスプレジデント、マット・ベネット氏は、トランプ大統領は来年の大統領選で、自身と「危険な左派」との戦いという戦術を仕掛けようとしていると指摘。バイデン氏のような中道派がその戦略を食い止めない限り、民主党はトランプ大統領の手中に落ちる危険があるとの見方を示した。
2020年大統領選の民主党の最有力候補と目されていたバイデン氏だが、先月開かれた同党の初回テレビ討論会で大きくつまづいた。移民を両親に持つ黒人女性のカマラ・ハリス上院議員に人種問題を巡り激しく追及され、バイデン氏の支持率はそれ以降急低下している。
(James Oliphant 記者)